塀之上アユム
第1話・六月にあったこと
「つめた〜いソーメン、あります」
と、そこには書かれていた。
一瞬笑いそうになったが、これは笑い事じゃない。なにしろ、チラシの裏だ。ぶっとい油性マジックで、しかもえらく汚い字で書いてある。さらに、それは手で雑にちぎったガムテープで、ベージュの塗装がところどころ剥がれている小汚いアパートの玄関ドアに、堂々と張られているのだ。
いくらなんでもここまで人を小バカにした出迎えかたは、なかなかない。
僕は緩みかけた頬に力を入れ、インターホンも押さずにニイヤくんのアパートのドアを開けた。キモチ的にはドアを蹴破る勢いで。
「おー、来た来たー」
サルみたいに顔を真っ赤にしたニイヤくんが、部屋の奥でただでさえ高い声をひっくり返しながら手を振った。豪さんも「おう、待ってたぞ」とか頷きつつ、目が据わってる。それよりも僕を困らせるのが、玄関開けてすぐ目の前のミニキッチン。一体なぜ、箕輪サンがそこで湯気に包まれながら僕を迎え入れるのか。
「ちょうどソーメン茹だったところだよ」
って言われても意味不明つーか、フリフリのエプロンとか短すぎるスカートとかそこから伸びるナマアシとかツッコミどころ満載で、え、なに、新妻気取り? まあ、カワイイ系って言われてるチビのニイヤくんとクールな長身スリムの箕輪さんじゃ、とてもカップルには見えないけどさ。
それは置いといて。
「つか豪さん。人のこと飲みに誘っといて、なに勝手にいなくなってんすか」
部屋にズカズカと入って僕が言うと、豪さんは申し訳なくもなんともなさそうな顔で、「おうマジすまん」と軽く答える。あー暖簾に腕押しってこれのことだよ、と身をもって言葉の意味を学習しつつ、僕は足の踏み場もない床に無理やり座るトコロを作って座ると、さらに文句を言った。
「1人で『だっぺえ』行って、なんかすげえ虚しかった……」
「えー、でもちゃんとメールしといたよー。電話かけてもつながらなかったからさー」
「え、マジで?」
ニイヤくんに言われて、僕はポケットから携帯を出した。そうだ、すっかり忘れていた。バイト中は携帯の電源を切っていたのだ。
慌てて電源を入れて、メールを受信する。ピロロ。おお、ニイヤくんからのメールは、確かに届いていた。僕はおもむろに中身を開いて、驚く。
『遅いから先行ってるよ』
え、どこへ? ってまあ聞かなくても想像できるっちゃできるけど、これのどこが「ちゃんとメール」なのかっていう話。これで良いと思ってるってんだから、こんな奴らに向かってまともに怒るなんて、エネルギーの無駄なんだけどさ。そもそもここに来てしまったこと自体、初めから無駄なんだから、仕方ない。
「で、なんかあったんすか」
早速ビールの缶(どうせ用意されてないと思ったから、持参した)を開けつつ、僕は豪さんに訊いた。
ことの発端は、今日の2限のことだ。
新入生の僕らもすっかり馴染んできた学食2階で、僕はニイヤくんと2人でうだうだしていた。せっかく学校に来たのに、予告もなく2限が休講になっていたのだ。まあ、休講じゃなくても僕らはいつもうだうだしてるんだけど。
なんでかは解らないけど、僕はいつも、気付いたらニイヤくんと一緒にメシを食っている。偶然酷似していた時間割以外に、僕らの縁はない。
「あーっ、やっべ。財布150円しか入ってない。ちょっと貸してー」
初めて交わしたのと同じセリフで、ニイヤくんは今日も僕の金で学食カレーを食べる。食べるものをしっかりトレイに載せて、レジまで来たところではじめて金がないと言うのだから、タチが悪い。出会ってたった2ヶ月なのに、僕はもう何回この手口で奢らされたんだろう。騙されているとは思わないけど。ニイヤくんは、そういうキャラなのだ。僕が奢らない日は、他の誰かが彼に奢っている。役得だ。
とにかくニイヤくんがカレーライスにがっつき、僕が蕎麦を啜っているときだった。豪さんが、寝起きみたいな顔でやってきて、明らかに無精で色濃くなった髭をいじりながら、言った。
「スマン、今夜呑みに行こう」
いつにもまして唐突な。
「すんません。今日は家庭教のバイトだから無理……」
「俺、今日早番だから、『だっぺぇ』で呑んでくれたら途中から合流しますよー。あの店なら安いでしょー」
僕のノーと、ニイヤくんのイエスは、ほとんど同時だった。
「じゃあ8時に『だっぺぇ』行くわ。いや、良かった。今日はどうしても呑まずにいられない気分だったんだ」
豪さんはニイヤくんの答えを採用し、僕の答えはそっくりそのまま無視することに決めたらしく、決めるだけ決めると満足そうに去っていった。その後ろ姿を見送りながら、僕は仕方なくニイヤくんに訴える。
「無理だよ、俺」
「とりあえず家庭教終わってから来りゃいいじゃん。待ってるから」
「でも、ニイヤくんのバイトが終わるまで、豪さん1人だよ? 待たせておくのも悪いけど、1人で呑みだしたらあの人、もっとヤバイじゃん」
2人でこそこそ話していると、背後に感じるスラリ長い影。
「灰皿、借して?」
箕輪サンはハスキーな声で僕らのテーブルに割り込んできて、人が食事してる横でおもむろにマルボロのメンソール(ライトではない)に火を点けた。すかさず、ニイヤくんが言う。
「いいところに来た。箕輪サン、今日呑みに行かない?」
偶然声をかけているように見えるけど、さすがニイヤくん、まっとうな人選だ。箕輪サンの家は、大学にも駅にも『だっぺぇ』にも近い。男に囲まれても平然とした顔でガンガン飲めるし、エロ話をしてもひかない、貴重な人材だ。僕らの誰よりも酒に強いのは、ある意味欠点だけど。
「あー、ん、まあいいけど?」
思った通りあっさりと、箕輪さんは僕らの誘いを受け入れた。
「じゃあ8時に『だっぺぇ』で豪さんが待ってる。俺らも後から合流するからさ」
「わかった」
どっちにしても、僕が後から行かなきゃならないことは変わらない、らしかった。
そんなわけで、僕は家庭教のバイト終了後に、家とは逆方面に電車を乗り継いで、また猫田駅まで戻るハメになった。面倒くさいことこの上ないが、まあそういうの別に嫌いじゃないし。などと思いながら、駅から5分くらい歩いたところにある『呑むだっぺえ』の、渋いんだか汚いんだかわからない微妙な焦茶色の暖簾をくぐる。
「らっしゃいませー」
威勢のいい声に迎えられて店内を覗くと、揚げ物の油っこい匂いがむっと僕を包んだ。ここの料理はどれもイマイチだけど、ボリュームを考えればかなり安い。今日も貧乏そうな学生で一杯だった。
ニイヤくんがこの店で週2のバイトをしてるため、僕らはただでさえ安い値段をサービス価格にしてもらえる。1人1800円もあれば泥酔できるのだから、使わない手はない。おかげで、入学して2ヶ月にして、すっかりこの店の常連になってしまった。
しかし、どうしたもんだろう。
満席の店内を隅まで見回してみたのに、いないのだ。豪さんも、ニイヤくんも、箕輪さんも。
やられた、騙された。
僕が呆然と立ちつくしていると、いつも気前よくサービスしてくれる若い店員が教えてくれた。
「ニイヤくんたちから伝言。アパートで待ってるって」
「マジすか」
ありえない。
ニイヤくんのアパートは、駅から徒歩10分。まあ、駅から歩けばそんなに遠くないし、学校に行くには最高の立地だけど、『呑むだっぺえ』から歩くとたっぷり15分かかる。酔っぱらってみんなで歩くときは気にならないけど、こんな時間にシラフで1人歩きするには、えらく長い道のりだ。
あーもう面倒くせえ。帰っちゃおうかな。と、一瞬思った。
でも、考えてみれば今から家に帰る方がよっぽど面倒だし、家に「今日は友達んとこ泊まる」と電話をしてしまった手前、今さら家に帰るってのもカッコ悪い。
結局、僕はニイヤくんの家まで歩くしかないのだった。
猫田駅を越えて線路沿いに少し行くと、「猫田芸術大学」と妙に仰々しく書かれた正門が現れる。
ここをくぐって大学の敷地内に入り、中を突っ切って裏門に出れば、ニイヤくんのアパートは目の前だ。でも、夜九時を過ぎて閉門した大学の敷地は、今の僕にとって何の意味もない。正門を無視して、そのまま学校の塀沿いを歩く。
しばらく歩くと、西門が見える。ここで僕は右折する。難関はここの先、西門から裏門(あれ、正しくは北門だったか?)までの道だ。
歩けばなんてことない、5分ほどの道のりだ。だけど、なにしろ右手には真っ暗で静まりかえった大学の校舎(しかも裏側)。そして左手には延々と、わけのわからない3mくらいの高い壁がそびえ立っているのだ。無機質な景色が続く、おぞましい道。1人で歩くと、正直ちょっと怖い。
だから、そんな思いをしてやっとたどり着いたところで「ソーメン、あります」とか言われても笑えない、ってワケだ。
「だからね、せめてちゃんと豪さんが話をしてくれないと、ここまで来た甲斐ってもんがないでしょ」
ビールを流し込みながら話をすると、テンションが上がるのは早かった。ここまで(ちょっと早足で)歩いたのがウォーミングアップになったのかもしれない。
しかし、そんな僕とは対照的に、豪さんは悲痛な面持ちで(酔ったせいで目の焦点はおぼつかないけど)、重々しく言った。
「わかって欲しい、俺は今、つらいんだよ。ああ本当につらいよ」
こんな豪さんの表情を見るのは、珍しかった。さすがに少し心配になって、僕は真剣に訊くことにした。
「何があったんですか?」
「実は……スチームが国に帰ってしまったんだ」
「え!?」
僕は思わず大声を出した。なんとなく、ビックリしたような気がした。
しかしよくよく考えてみると、僕はスチームについてあまり知らなかった。豪さんが重々しく語りすぎるから、思わずつられてしまっただけだ。
そうか、スチームか。
スチームねえ……。
ふっと首をかしげてしばし硬直しつつ、考えてみる。
その名前を知らないワケじゃない。でも、僕がスチームについて知ってることは少なかった。彼が豪さんの友達だということ、日本人ではないこと、そしてスチームというのは愛称だってこと。うん、たった3つだ。こりゃ、予想外に少ない。
本名は一度聞いたような記憶があるが、すごい早口で答えられたから聞き取れなかったし、聞き取れたとしてもたぶん、長すぎて覚えられなかった。そういう名前だった。
「えーと」
とりあえず、どの国に帰ったのかぐらいは聞いておこうと思って、豪さんに言った。
「スチームって、どこの人だったっけ?」
「タイ」
おずおずと訊いた僕にすかさず答えたのは、豪さんではなかった。ニイヤくんと箕輪さんの口から、まったく同時に答えが出てきたのだ。
ぼくは「ああ」と頷きながら、二人の顔を順に見た。目くばせオッケー。
つまり彼らは僕に、『もうその話はさんざん聞かされたから、これ以上豪さんに話を振るな』と言ってるわけだ。今までにも何度かこういう場面があったから、僕もすっかりこのサインを覚えた。確かに豪さんは酔っぱらうと話が本当にしつこい。
しかし、ここで引き下がるのもどうか。一応名目として、僕は豪さんの話を聞きに来たんだし、ここで豪さんを黙らせたら、僕がわざわざこんなとこまで来てやった意味がなくなってしまう。黙ってられない。
「でもさ、スチ……」
「はいはい。ソーメン出まーす」
箕輪さんがいつになく大きく、しかもわざとらしく弾んだ声で割り込んできた。意地でも僕に喋る隙すら与えないつもりらしい。なんつう強引さだ。
でも――うん、まあ。
「はい、新鮮なうちに食べて」
新鮮なソーメンってなんやねん、と軽快にツッコミを入れるとニイヤくんの隣で、僕はちょっとばかり硬直してしまった。すぃっと伸びてきて、めんつゆの器を差し出した、白くて細いノースリーブの腕に、目が泳ぐ。
箕輪さんは僕の動揺を知ってか知らずか、顔をえらく近づけてきて、小さな声で言った。
「スチームのことは、私たちが話すから。どうせ豪さん、もうすぐ寝ちゃうし」
話の内容とは関係なく、ただ、ずいぶんきれいな赤なんだな、と思った。今まで意識なんかしたこともない、彼女のメガネのフレームの色。こんな至近距離で見てたら、視界が真っ赤に染まりそうだ。
あー、なんだろ。別に箕輪さんのことが好きとか、そういうワケじゃないんだけど。
早くも酔ったかな。
とにかく箕輪さんの予言は、すぐに現実となった。
2口ほどソーメンを流し込んだ時点で、豪さんは力尽きたかのようにそこらへんに寝っ転がって、やがて重低音の鼾をかき始めたのだ。ニイヤくんが妙に悪どい顔をして笑いつつ、言った。
「これはこれで迷惑だよねー」
なんにせよ、ようやく普通に会話ができる状態になったということだ。
だからってわけじゃないけど、僕はそれまで律儀にも正座していた自分に気付いて、軽く照れ笑いしながら足を崩した。まあ、豪さんと話をするということは、そういうことだ。何だかんだ言っても逆らえないし、捨て置けない。不思議な人だ。
「スチームさんは、別に」
ソーメンを啜る合間合間に、箕輪さんは予告通り、スチームについてぽつりぽつりと教えてくれた。
「自分から国に帰ろうと思ったわけじゃなくて」
ニイヤくんは話を聞いてる様子もなく、ソーメンにがっついている。僕はときどき手を止めたりして、うんうんと頷きながらちゃんと話を聞いた。
「いわゆる強制送還? だったらしくて」
「えっ?」
素直に、僕は驚いた。
強制送還という強くて堅い言葉が、ちょっとこの場にそぐわなすぎて、ピンとこなかった。
確かにスチームは得体の知れない外国人だったかもしれない。
でも、ときどき僕らの授業に潜り込んで、へたくそな日本語で豪さんに何か質問したり、やけに楽しそうにノートをとったりしていた姿は、熱心な留学生そのものだった(潜りで大学の授業を受けるのは是が非かという問題はおいといて)。アジアンレストランでのバイトも頑張っていたらしいし、店の残り物といって食べものをよく持ってきてくれたし、豪さんからは悪い噂なんてひとつも聞かなかった。
「悪い人じゃないと思ってたけど……」
虚しく宙を転がった僕の言葉を、ひととおりソーメンを食べて満足そうな顔をしたニイヤくんがキャッチした。小さいゲップをひとつ、その後で突然、真面目な口調でつっかかってくる。
「いい人だからって、悪いコトしないわけじゃないしなー」
あれ?
ヤバイ。せっかく豪さんが寝たってのに、今度はニイヤくんのスイッチをオンにしてしまったか。ニイヤくんもアツくなると話が長いんだ。
僕は焦って、なぜか思わず箕輪さんの顔を見た。いつもみたく、「めんどくさい」って顔で話を逸らしてくれるんじゃないかと思ったのだ。
が。
「そうまでして日本にいたかったんだから、仕方なくない?」
とか、箕輪さんまで神妙な顔で軽く議論に参加してくるし。それを受けてニイヤくんは、妙に気取った顔なんかして、そこら辺に転がってる豪さんを顎で指す。
「うん。まあ人それぞれいろいろ考えがあるんだろうけどさー。そこの人ですら、苦労して大学入ってきてるみたいだし」
あんまり表情を変えないで、うんうんと小刻みに頷いた箕輪さんの横で、僕はついて行けなさを感じた。なんかいきなりマジモード。
そういうの、嫌いじゃないんだけど。
2人を見てたら、こんなところでソーメンなんか啜ってる自分が、なんか不思議になってきた。深い意味はなくて、たぶん僕だけがまだ、語りに入るほど飲んでないからなんだろう。
ニイヤくんの言うとおり、豪さんはかなり年上だ。本当んとこは何歳なのか知らないけど、未だにさん付けで呼んだり、気軽にタメ口をきけないぐらいの隔たりはある。なんでその歳になって大学に入ろうとしたのかは、知らない。
あんまり意識したことはないけど、ウチの大学って無駄にいろんな年齢の人がいるのだ。大学ってこんなもんなのかなって思ってたけど、それにしても人生遠回りしてるっぽい人は多い。
箕輪さんだって実は僕より1コ上らしいし(でも浪人じゃないとか言い張ってる。なんでだ?)、ニイヤくんにしたって、年齢こそ僕と同じだけど、なんか今どき珍しいくらい苦学生風情だし。
なんでそんな人たちと一緒に、僕はソーメンなんか食ってんだろ。
とかなんとか。
僕が一人でそんな違和感について考えてる間に、2人のマジモードは見事、嵐のように去ってしまった、らしい。台風一過の空間には、鼾と脳天気な空気が充満し始める。
「あー、そういえばこれ、こないだ実家から送られてきたんだけど」
箕輪さんがさりげなく、トートバッグの奥からワインを1本引っ張り出したので、僕たちは狂気乱舞した。
――結局。
「ニイヤくん、大丈夫かな」
豪さんとは違う種類の、不定期なリズムに乗った鼾をかきながら寝始めたニイヤくんの顔を覗き込んで、箕輪さんは言った。
「恥ずかしいヤツだよ、マジで。変な話ばっかでごめんな」
僕は謝った。ニイヤくんは今日も酔った勢いでいつもの童貞丸出し妄想エロトークを繰り広げたあげく、ワインを1本空けたところで、とうとうダウンしたのだ。
「えー、別に」
箕輪さんはやっぱりクールに首を振った。実際、いつも眉ひとつ動かさずに隣で飲んでるくらいだから、僕たちのエロトークなんて彼女にとってはホントに大したことないのかもしれない。
「じゃ、私もそろそろ帰るかな」
まるで役目が終わったみたいな顔であっさりと立ち上がったりするのも、いかにもどうでもいい感じで。でもその割にはいっつも僕らんとこに来て喋ったりしてる箕輪さんが、本当は何を考えてんだかちょっと知りたかったりもする。
だからってわけでもないけど、そのまま帰すのが惜しくて、なんとなく僕は愚痴ってみた。
「あーあ、箕輪さんは帰るところがあっていいよな。こんなむっさい鼾だらけの部屋で寝なくていいんだもん。ずりいなぁ」
すると、箕輪さんはふいっとこっちを向いて、でも微妙に目は合わせずに、感情のない声で言った。
「そんなら、私んちに来れば?」
「えっ? や、さすがにそれは! マズいでしょ」
平然とした顔で言う箕輪さんに対して、恥ずかしいほど明らかに腰が引けてる僕という構図。
これじゃニイヤくんをバカにできない。一応童貞じゃないはずなのに、僕もこういうのって全然慣れない。
「そう? じゃあおやすみ」
何を言っても墓穴を掘りそうで自分をフォローできない僕を置いて、箕輪さんはさっさと帰ってしまった。近いって言っても5分ぐらい歩くんだから、送ってってやれば良かった――と思ったのは、箕輪さんから「無事に帰れたよ」というメールが届いた後のことだ。
長い夜。
なんだか僕は、悶々と眠れなくて困った。
たぶん、眠れない理由の80%は豪さんとニイヤくんの鼾のせいだと思うけどさ。
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