山手線ゴー・ラウンド

――はじめに――


 東京都心を巡り巡ってぐるぐる回り続ける山手線が好きです。
 何度となく乗っているのに、例えば四月の車窓から桜を見れば新しい出会いにわくわくしながら学校へ行ったことを、七月の雨の夜ならハーゲンダッツのアイスを食べながら苦い失恋をしたことを、八月の雨が降りそうで降らない夕方には初めて行った大好きなバンドのライブで一番感動したメロディーを、十一月のせわしない夜にはバンドの掛け持ちでいろいろなスタジオをハシゴした記憶を、十二月の朝早くには始発までカラオケで歌いまくって声が出なくなった夜のことを、すっきり晴れた二月の朝に乗れば吐きそうなほど緊張した受験の時のことなどを、思い出したりします。
 私一人でもこれだけ思い出があるのに、山手線は日本で一番利用者の多い電車です。毎日毎日せわしなく、たくさんの人と、その人にまとわりついている思い出だとか感情だとかを乗せて、それなのに本人(山手線)は涼しい顔をして定められたレールの上をただ回っていると思うと、私はわけもなく気が遠くなってしまいます。
 そういうものを、ほんの少しでも良いから自分の手で書いてみたいと思って、「山手線ゴー・ラウンド」を始めました。特別な誰かではなく、あなたのすぐ隣で吊革につかまっていたり、真っ正面の席で居眠りしていたり、本を読んだり音楽を聴くのに夢中になっていたり、端っこのほうで携帯で一生懸命メールを打っていたりする、そういう行きずりの誰かが背負っている(かもしれない)物語を、よろしければひとつ読んでやって下さい。
 
20040323  千村はつひ