――恵比寿――
千村はつひ(home)
理想のタイプってあるじゃん。え、もちろん女だよ。理想っていうぐらいだからさ、絶対現実にはありえないって思うべ? だからこそ、ホラ、多少妥協して現実の女と付き合ってるわけなんだけどさ。それがさ、いたんだよ。まさに理想の女。マジだって。いや、俺もびびったって、マジで。恵比寿行ったんだよ、この前。ほら、恵比寿ってさ、駅からガーデンプレイスに行くとき、歩く歩道あるじゃん。あ、ハハ。間違えた、動く歩道な。歩道が歩いたら怖えーよな。まあそんなのどうでもいいけどさ。そこで俺はボーっと立ってたわけよ。そしたら、いきなり後ろから声かけられたんだよ。『やっと迎えに来てくださったのね』って。敬語だぜ、初めてそんな敬語使われたんだよ。で、何かと思ってふり向いたらさ、これが、マジありえない。超かわいーんだって。もうね、理想どころじゃねーよ。透き通った白い肌でさ、ストレートの長い黒髪だぜ。枝毛とか全然無さそうで、キューティコーって感じの! けどちゃんと化粧とかはしてたから、飾り気ないってわけでもなくてさ。綺麗なんだよ、フツーに。ていうかフツー以上に。で、今時どこで売ってるんだか解らないレトロな感じの服装でさ。何のコスプレかと思ったんだけど。もうとにかくすげー可愛いんだよ。あー、お前に見せてやりたかったねマジで。でさ、なんか人違いだと思うんだけど、『お待ち申しておりました』とか言われちゃってさ。っはは、人違いっていうのもなんかもったいなくて、ちょっと話合わせてみたりしたんだよ。たぶん俺のそっくりさんと遠恋なんだな、あの子。『戦いに敗れることなく戻ってきてくださったのですね』とか言っちゃってさ、あの子の彼氏ってスポーツ選手か何かなんだろうな。もう必死で腕組んできて、ギューって胸押しつけんの。これが、すごい細いのにいいオッパイしてるんだわ。あんまり良い感触なんで、周りに人がいたからやんなかったけど、もう揉みそうだったよ。やっぱ揉んどきゃ良かったかな。とにかくさ、『ずっとあなたをお待ち申しておりました』とかさ、『今すぐにでもあなたと契りを交わしたいのです』とかよ? 俺ちょっと勃ったもん。でもさ、そんなこと言われてどうすればいいのか解んねーじゃん。なんか上手く返せれば良かったんだけどさ、なんも出来なくて。俺そん時カノジョと写真美術館の前で待ち合わせだったんだよ。鉢合せしたら修羅場じゃね? カノジョ怒らせるとマジ怖えーんだ、雷落としそうな勢いで。いくらその子が理想の女の子だって言ったって、理想と現実ハカリにかけたら、現実の制裁のほうが怖えーんだよ。だから、歩く歩道、じゃなくて動く歩道が終わる辺りで、『俺、たぶん人違いです』って言ったんだわ、もったいないけどカノジョ怖えーからさ。そしたら、その子すげー悲しそうな顔して、次の瞬間どこ行ったんだか、もう姿が見えねーの。俺はさー、もう一目ぐらい見ておきたかったのにさ。速攻逃げたんだよ、あの子。まあ人違いって結構恥ずかしいから、気持ちは解るけどなー。あ? うん、その後は予定通りカノジョと写真美術館行ったよ。企画展? 何だっけ……。あー、んーと、二次大戦と東京っていうやつだったかな、確か。うん、焼けてしまう直前に撮った旧伯爵邸だか何だかの写真とか、あったよ。ああ、言われてみれば確かに、そこに映ってたお嬢様とあの理想の女の子、似てたなー。俺って古風なタイプが好みなのかな。
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昼休みをフル活用してそんな話をした親友に、僕は言ってやった。
「お前はホント、長生きするよ」
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