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0630
「君の不在は、僕の心に大きな空洞を作ってしまう。君が居ないと、寂しくて、どんな風に時間を過ごしたら良いのか解らなくて、本当に駄目になってしまう。だからいつも側にいて欲しいんだ」
男は云う。
「それはエゴだわ」
女は答える。
「貴方はいつだって貴方を中心にしか考えていないのだもの。寂しい、寂しいと云うばかり」
「じゃあ、君は僕の不在が寂しくないのかい?」
「全然」
「そうか」
「だけど、私が不在の時の貴方を想うと、気が狂いそうになるわ。一体どんな風に過ごしているのか、誰と一緒にいるのか、心配で心配で堪らない。寂しくしていると知ったら尚更だわ。だからいつも側に居なきゃいけないと思うの」
「それもエゴだね、しかも随分と思い上がったエゴだ」
「そんなの知ってるわ」
「だけど、何れにせよ――」
「一緒に居るということが二人のエゴを満たすのならば、それに越したことはない、ということだね」
「そういうこと」
女は微笑む。つられて、男も。
0629
どうしようもなく弱い部分があります。誰にも負けないと思える部分もあります。心の中には触れられたくない部分が沢山あって隠しています。見て欲しくて知って欲しくて堪らない部分もあるけれど、上手く伝えられません。やりたい事はいっぱいあるけれどやりたくない事もいっぱいあります。自分は何を出来るのか解らないけれど、どうも自分は何も出来ないとは思えません。自分以外のすべての他人は恐いです。だけど踏み込みたい、踏み込まれたい。周りを見ている限り、みんなそうやって生きているみたいなので、つまり私はごくごく普通に生まれ育ったごくごく平凡な人生を歩んでいます。とは言いながら平凡という基準を知りません。それゆえ非凡の基準も解りません。自分以外の誰を見ても、有能とか無能とか、正常とか異常とか、判断できません。親切にもそれを誰かが判断して教えてくれたとしたって、その言葉を信じられません。解らないので、感情に従うしかないのです。「すっごく好き」。「なんか好きかも」。「どうも好きになれない…」。「これが楽しい!」。「そういう事をされると不快…」。そこには根拠も理論も存在しないけれど、私が思ってた事だけは私の中で確かなので、それだけは信じられる。
0625
少女は子供の頃からとても大人しく、しかも非常に聡明だったのは私の目から見ても明らかだったのであるが、にも関わらず、事あるごとに両親や学校の先生などの大人に怒られていたのが、ひどく印象的だった。
「あなたは、人の言う事を1聞いて10理解してしまうかもしれない。それはとても良い事だけれど、人の話を聞くことを、途中で放棄しちゃダメ。それと、自分が1言えば周りも10理解してくれると思っちゃダメ。言いたいことは最後まで言わなきゃ、正確には伝わらないのだから」
生まれついてのコミュニケーション能力が人より劣っていた少女は、それでも非常に前向きな性格だったので、自分の不全を克服すべく尽力した。その甲斐あって人の話を最後まで聴く忍耐力は身についたが、自分の言いたいことを最後まで言うと、周りの人の顔が段々曇っていくことにも気付いてしまった。
もともと、人よりも少しだけ回転の速い彼女の頭の中には、吐き出したい言葉が溢れていたのだ。彼女は初めから1言えば周りも10理解してくれると思っていたわけではなく、言いたいことがありすぎて、すべてを口にすることが出来なかっただけなのだった。それをすべて無理矢理吐露するとどうなるか。
激しすぎる自己主張は忌み嫌われ、解りやすく噛み砕こうとするほど、複雑な思考回路は余計に理解されにくいものとなり、長くなる話は疲労感だけをもたらした。ただ、それだけだった。
そんな状態だから、当然のように少女は努力することを辞め、前向きであることも辞め、自分の思ったことを喋るのも辞めてしまった。
そして、少女はとうとう喋ることが出来なくなってしまったのだった。
0621
何もせずに後悔するよりは、とりあえず何かやってみて後悔するほうがマシだ、というのは、馬鹿みたいに使い古された言葉ですが、やってみた直後に、心底「やらなきゃ良かった」と激しい後悔に見舞われたりすることだって、やっぱりあるのですよね。
完全に自分を見失いました。多分、梅雨の所為。
0620
無性に唄いたい欲求が胸の中で騒ぎ始める。カラオケじゃ駄目で、あの人のギター、その人のベース、ドラムはアイツ。握るマイクの手の中でのフィット感。妄想の中で出来上がったバンドは、最初から酷く音が理想的にまとまっていて、そんなことは現実に成り得ないので、また悲しくなる。
身体が唄を欲しているのか、心が唄を欲しているのか。
0619
10代から20代にかけての貴重な時間の殆どをあの場所で過ごした私にとっては、其処が思い出深い場所であるのが当然の話で。笑ったり、怒ったり、ときめいたり、憧れられたり、語り合ったり、諭されたり、食べたり、呑んだり、こっそりキスしたり、触れ合ったり、泣いたり、泣かれたり、奪ったり、奪われたり(舐めたり?)(吸われたり?)しながらも、恐ろしくマジメに歌ったり、跳ねたり、首振ったりして、あの頃はものすごく堕落した毎日だと思っていたけれど、つまりは青春を謳歌しまくっていた。
すっかり疎遠になっていたけれど、それが無くなるとなると、とても哀しい。大学時代に最も多くの時間を捧げたサークルの部室が、7月いっぱいでとり壊される。
0618
例えば「○○さん、もうすぐ30代なんだって」「そーなんだー」と云う程度のレベルだとしても、すべての個人情報はゴシップの対象たりうると思うわけですが、こと恋愛に関する話は、最もプライベートな問題である上、その構成要素の多くが『感情』という曖昧な物であるため、貴女のその恋の話が100%完璧に他人に伝わる訳が無いのです。完璧でない情報は、勘ぐりという形で補完されて、ようやくゴシップとなる訳ですから、ある事ない事言われるのが嫌ならば、恋の話は当事者だけの秘め事にして自分だけが楽しんだり苦しんだりしてください。
私は何を言われてもあまり気にならないので、とりあえず面白そうな物はネタにしますが。
0617
世の中の誰もが多かれ少なかれ『自分は特別だ』と思っているのだから自分は特別ではないのだ、と言うことに気づいているのは特別だ、と云う醜いループ。
0615
君の部屋で芽生えた黄緑色の小さな葉が、少しずつ大きく色濃く息づいて行くのを見るにつけて、とても嬉しくなるし、とても愛しくなるし、とても切なくなる。生命の神秘を以って痛感するは、この掌からさらさらと零れ落ちてしまう砂の如く、留まることなく浪費されている時間の存在。
あの葉っぱがひとまわり大きくなっている間に、一体、私は何を成し得たと云うのですか。
0614
こんなどうしようもない私に、アナタは今日も変わらず、不当なまでの優しさを注いでくれて、どうもありがとう。それでも何かと侭ならぬ人生なので、苛々していたり、愛想が悪かったりするので、ごめんなさい。
これはもう雨の所為にでもするしかないのだろうね。
0613
私が心の奥底から希求しているのは、愛のコトバではないのです。だけど、ヒトが何らかの感情をロジカルに相手に伝えようとすると、どうしてコトバが必要になってしまうのでしょう。
コトバじゃ薄っぺら過ぎるし、体温じゃ曖昧過ぎる。
0611
『たとえば君がいるだけで…』?
アナタの言葉に想い出すは、ほんの少しだけ(耳掻きぐらい)心を引っかかれるような、プチ懐メロラヴソング。私がアナタの傍に存在すると云うだけで、意味があるのならば、それはとても嬉しい。他のすべての人にとって、私が存在する意味が無いとしても、大切なたった一人にとって意味があるだけで、生きていようと思える。
だけど、ごめんね。私はただ黙ってアナタの傍に居るだけだなんて、とてもじゃないけれど上手に出来ません。困らせて、怒らせて、泣かれても、それでも意味がある存在で居たい。
0608
自分の気持ちをコントロール出来ない。良いとか悪いとか、好きとか嫌いとか、正しいとか間違っているとか、信じてるとか疑ってるとか、許せるとか許せないとか、そういう事じゃない。そんな事を問わないで。
こういうときにこそ、簡単に壊れてしまえば良いのに。私は、精神的にも肉体的にも驚くほどの持久力の無さを誇るくせに、最後の最後で一歩踏み外してみるという方法を、未だに身に付ける事が出来ない。
0607
記憶力で言えば、私は非常に性能が悪い。だいたい注意散漫なので、そんなに周囲の出来事を見ていない。都合の悪い事は勿論、都合の良い事だってすぐに忘れてしまう。大切な事もすぐに忘れるし、「どうでもいいことばっかり覚えてるのよね」とすら言えない。忘れる。
だけど、忘れたと思っていたものは単に胸の奥で眠っているだけで、ある瞬間にそれらはパァッと蘇って来たりして、そうやってヒトの感情を動かしたりするわけです。
0606
「ごめん」って言葉は好きじゃない。言うほうよりも、言われるほうが、苦しい。一回は、その言葉を口にするのが好ましいけれど、「本当にごめん」と何度も何度も言わないで。何の裏づけも無い処で、そんな風に許しを乞うのは辞めて。
「もうしない」とか「これからは気をつける」とか「今度からこうしよう」等という未来形の言葉だけで、私の気持ちは収まるのだから。
0604
十五の頃に、ほんの少しだけ(あくまでもほんの少しだけ)私に片想いをさせた男の子から、ゆびとま経由で突然届いたメール。
『三年前に結婚して、今は電気機器メーカーの営業をやっていて、やっと子供も出来て、家を買ったんだけどローンで大変で』。知りたかったような、知りたくなかったような、二十五歳という現実の話。当時はまったく予想出来なかった君のマトモライフは、今となって想像してみたら、笑えるけれど。
私が余りにも変わらないので、きっと君はびっくりする。それが嫌だから、もう二度と会いたくない。
0601
神奈川から東京へ入る県境を越えて、大喜びする私を横目で見ながら、アナタは云う。
「オマエは本当に東京を愛してるな」
その通り。私は故郷でもないこの東京を、愛してやまない。だって、日本にこれほどの巨大都市が存在しなかったら、アナタと絶対に出逢う事も出来なかったはずだから。
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