←
0830
夏の終わりに、私に出来ることを考えた。考えて考えて考えた、けれど、結局何も思い浮かばなかった。去年の夏もそうだった気がするし、もし私のところにちゃんと次の夏が巡ってくるならば、来年の夏も同じに違いない。そして、秋の終わりにも、冬の終わりにも、春の終わりにも、何も出来ない。
ただ、私を保つだけで精一杯なのだから。
0829
(つづき) だけど、こんなあたしも大人になってみたら自然に脱皮して、殻の外でも好き勝手に出来るコトを知った。いともたやすく、出来るようになった。だって、あたしが子供の頃に思っていたほど、あたしがたった一人で恐れていたほど、世間はあたしのことなんか見ちゃいないし、意識なんかされていないんだもの。まったく、存在しないものを想像して殻に閉じこもって怖がっていただなんて、あたしはナンテ莫迦だったんだろう。
今こそ、あたしは誰より自由なカタチで踊れるんだ。
0828
あたしは幼少期から、なんだかんだ言いながらも常識だとか世間体だとかを気にしている子供だった。誰に教えられたわけでもないけれど、余計な知識ばかりがあたしの周りに膜を張り、やがてそれらは殻となって、あたしを不自由な場所へと閉じ込めた。だけど幸か不幸か、あたしはそんな環境ですら楽しむ方法を知っていた。それが、妄想癖だった。常識や世間体から成る殻なのに、その内側の世界、つまりあたしの頭の中は、どこまでもどこまでも自由なのだった。妄想は誰の事も裏切らないから、とてもハッピィだから、あたしは自分の周りに出来てしまった奇妙な殻を、破ろうともしないでとうとう大人になってしまった。(つづく)
0827
火が点いて。火が消えて。
感情なんてモノは何時だって一過性のマイブーム。だけど、自分の其れを上手くコントロールする事はとても難しくて、そんなものに、踊らされて、そんなものに、傷付いて。それだからこそ面白いのだけれど、波が引いて、熱が冷めて、ふと気が付いたら「一体今まで私は何をやっていたのでしょう?」ナンテ。馬鹿みたいに。
それに比べて、初めから「悪くないんじゃないの?」程度にしか私の関心を引かないものは、最後までその小さな火を絶やすことなく、私の心の隅っこ、ほんの小さな一画に腰を下ろし続けていて、その存在に気付いたときに妙にホッとしたりする、よね?
ねえ?
0826
ふつうのこと。
ふつうじゃないこと。
ふつうになってきたこと。
ふつうとはおもえないこと。
ふつうだとおもいつづけてきたこと。
それらが全て、恋愛をとりまく世界から変わっていってしまうあたりが、私の駄目な女たる所以です。自分のスタンダードなんて何もないから、貴方の色に染めて下さい。
0824
「こんな台詞を言われてみたい」と夢想した。
何処かで聞き覚えのある台詞だ、と思った。
ああ、そうだ、これは言われたことがある台詞だと思い出した。
あれは確か、18歳が終わる頃に。
結局のところ、私はあの頃から何も変われていないのだ。
0823
「俺たちは、絶対にセックスレスなんかにはならないよな」と、前の男にもその前の男にも笑って言われていたような気がする。だからという訳ではないが、多分、今の男だってそう思っているに違いないと思う。理由は簡単だ、この男たちは私のことをセックスが大好きな女だと思っているから。
本当は、さして好きというほどではない。世の中にはもっと性を謳歌している人間が男にも女にも沢山いる。それに比べれば、随分控えめだ。ただ、どうせやることなのだから、楽しむための努力は惜しまない方がいいと思っている。私も存分に楽しむべきだし、相手を同じくらい楽しませるべきだ、と。
それだけの話だからこそ、私が努力する情熱を失っただけで全てが壊れるのも簡単だった。私は今度こそ、私が本当に心から求めているものが何か、貴方に気付いて欲しい。
0822#2
ねえ、どうして世の中にはこんなに心ときめくことがあるんだろう。いたずらに心をくすぐるばかりで、真実を求めようとする心を惑わすばかりのものが。わたしはどっちを向けばいいのかわからなくて、結局のところ、どこからも目をそらして、そうして朽ちていくに違いない。それを悪いとは思わないけれど、良いとも思わない。わたしは多分、どこまでもそう在り続けるしかないのだ、ということを、心のどこかで諦めて、それだけ。
0822
行きたくないのに、仕事だったり何らかの用があったりして出かけなければならないのはいつものことなのだから、いちいち不平不満を口にする情熱も忘れてしまった。それを差し引いても、台風って意外と好きかも知れないよ。
普段はあまり会話もしないような人とも交し合う言葉だとか、踊り狂う木の枝と黙ってじっと耐えているビルの肌のコントラストだとか、すっかり狂ってしまった予定のおかげでぼっかり空いてしまったなんでもない時間だとか、増水した川によって妙に平坦に見える街の景色だとか。日常の中にある非日常。
そして、台風が通り過ぎたあとは、いつも世界が洗い流されてきれいになったんじゃないかと妄想するのだけれど、私は未だそんなに美しくなった世界を見た試しがなくて、それが妄想だった事に気付かされるのだ。毎度のことながら。
0821
両親が私を急かす声や、相次ぐ昔馴染みの友人の婚約報告に、やっぱり私も其れなりの年頃である事は客観的に理解できるけれど。幸せの形は、未だ見つからない。というか、幸せなんてそもそもが不定形なものなのだから仕方無い。
このまま順当に階段を登って行けば、それも私にとっては多分幸せ。だけど、私は何処へ行ったってそれなりに馴染めるし、何を為たってそれなりにモノになるし、誰と居たってそれなりに愛してもらえるから、多分なんとでもなるや。というテイクイットイージーでひどく消極的な上昇志向のために、幸せに貪欲になれない。
今だって、幸せといえばそれなりに幸せだし、だけど私はどんなふうになっても同じことを言い続けるに違いないのだ。
0820
やっぱり笑うという行為は、私の中ではどうしても泣くという行為に直結しているような気がしてならない。楽しければ楽しいほど私は素直に笑うが、まるで均衡を取り戻すかのように、そのあとで哀しくなって、虚しくなって、自分の居場所がどうしようもなく見えなくなって、消えてしまいそうな気がして、それが怖いとか辛いとか言うわけではなく、大した感傷も無いくせに、無性に泣きたくなる。
それならば、楽しい事なんて何ひとつ無ければいい。
0818
父が
おまえも大人になったから
などと言って
かつて私とつながりがある人が
私と関係の無いところで繰り広げた
人生模様のようなものを
酒の肴として語った
私は
気の利いた感想も述べられなくて
ただひとこと
いつかその話を小説に書きたい
とだけ言った
0816
煙草を吸いたくない。
突然、そんなことを思い始めたのだから、仕方がない。
私の部屋にある小さな灰皿は用が無くなり、お気に入りだったライターも、夏の花火の時くらいしか活躍しなくなる。無駄にしてきたものが色々ある、けれど止められないのは中毒性ゆえだ。中毒性を持つものから抜け出すことは、余程の努力が必要なのだと思いこんでいた。煙草を吸うなと私に言った男との約二年の半同棲状態の中でも、決して止めることのなかった習慣を、必要としなくなって早一週間。これがずっと続いていくのか、一時的なものなのかは解らないけれど、とにかく私のコントロールできないところで約八年続いた悪夢はいとも簡単に消え、空は今、晴れ渡った。
何が自分の中で起こりつつあるのか、正直言って解らずにいる。
0809
泣いても良いよ。
泣けば良いよ。
もしそれで、あなたの心が少しでもまるまってくれるのならば、私は自分があなたの事を優しく包みこむためだけに生まれて来ただなんていう恥ずかしい言葉を言うのだって辞さない。
だから、泣いて。
0808
時間ギリギリ駆け込む今日も、何とかかんとか業務遂行、仕事内容如何を問わず、何してみても面白くない、不味い社食でランチを食べて、午後三時には喫煙タイム、あとは終業時刻まで、感情押さえて我慢して。そんな一定の奇妙なリズムを保ちつつ過ぎていく毎日をただ傍観している私は、夕方に会社から一歩踏み出した途端に違う人間に変わる事で、何とかバランスをとって、これが本物の私なのであるなんて言って粋がっている。
こんなつまらない毎日でも、さも楽しそうに、そして一生懸命に生きている人がいる。以前の私だったら、彼らには問題意識が確固たる理想が向上心がつまり全体的に脳味噌が足りないんじゃないかって思ったりしていたのだけれど、本当のところ足りないのは多分私のほうなのだろう。
0807
優しくされればされるほど疑ってしまうのは、それは君の所為なのではなく、優しくされることに何時まで経っても慣れる事が出来ない僕の習性ゆえ、なのだろう。
素直に『ありがとう』を言おう言おうと努力しているうちに、咄嗟にその言葉が口から出るように成るくらいには、成長したんだ。けれど、何時も笑顔が歪んでしまう。そして、そんな自分に気付いたときには、心もすっかり歪んでいる。
0806
早い時間に宅配ピザをとって、ビールを飲みながら、口のまわりと指先を油でギトギトにしながら、僕らは二人で小さく酒宴を催した。少しだけ、自分たちの馴れ初めの話で盛り上がって、そのあとはセックスもせずに、気持ちよく眠りについた。
一年という時間が、長いのか短いのか、まだ判断できずに居る。
0803
私が此処に居る理由と、貴方が私に求めている事は、完全とは言わないまでも、ほぼ一致するだろう。
癒したり癒されたり、泣かせたり泣かされたり、抱き締めたり抱き締められたり、イカせたりイカされたりしながら、共に生きていく、ということ。
だけど、私が此処に居る理由と、私が貴方に求めている事は、そこまで一致していないと思う。私は貴方に、もっと単純なことばかり望んでいる。
其の穏やかなる笑顔で、其処に居て欲しいのです。いつも、いつも。
0802
最近、洪水の夢をよく見る。
見る見るうちに、私の居るべき場所が浸水していくのだけれど、私は決まってその場所に居ない。どこか高いところから、ただそれを見下ろしている。何も出来ない。
怖いとは思わない。溺れるような気がしない。だけど、あの水の底に沈むのは、心地良いのではないかと思いながら、その様子を眺めている。沈んでみようかと思うけれど、水が汚いので躊躇しているうちに、次第に水が干上がって行き、ただ荒らされた、私の居るべき場所が残る。
何も出来ない。
0801
私は、他人のある種の感情の機微に変に敏感、というよりはむしろ過敏なのかもしれない。それでいて、ヒトが自分を見透かしたり、自分の領域に踏み込んできたり、ましてや自分のことを腫れ物のように扱ったりするのを、とても嫌う。
『自分がされたら嫌なことは他人にもしない』というのは、小学校でも先生が教えることだから、子供の頃から知っていることだから、私は色んな事に気がついても、わざと見て見ぬ振りをして、必要以上に痛い部分を無視するように振舞う事を覚えた。
そうして、気が付いたときにはもう、まるでヒトの心が解らない冷たい人間になってしまった。
←