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0930
(…オクサマ?)
水の中に身体を沈める。
私は常に、自分が何処へ行きたいのかという事も知らず、感情の流れよりは幾分揺ぎ無い筈の、時の流れに翻弄されていている。それはまるで、水の中で浮力に身を任せるのと同じような感覚で、その浮遊感は堪らなくいとおしい。だけど、そんな私にも、時々全てを捻じ曲げてしまいたくなるような強い感情が、何処からとも無く湧き出ることがある。そうなるともう、如何ともし難い。
水の中で身体を鎮める。
0929
この歳になってもなお、私は人の好意を上手に受け止める術を持っていないのです。ほめられればほめられるほど、まったくもってその意味がわからないような気がしてしまうし、愛されれば愛されるほど、これは絶対に何か裏があると思ってしまう。
誰も何も解っちゃいない、なんて思っている自分が一番解っちゃいないというのが定石。そんなもんでしょ。
0926
二人で一緒に買ったもの。
ペアリング。君が失くしてしまったから、今じゃただのシルバーリング。
モノコムサの携帯ストラップ。二人とも壊してしまったから、2代目もモノコムサに行って、二人で買った。今度のは、いつまで持つか?
それに、文庫本。「冷静と情熱のあいだ」のBluを君が、Rossoを僕が。
こんな関係を、僕はとても気に入っている。
0925
病み上がり。快晴。絵に描いたような。
空が青く見える仕組みよりも、ヒトが生きていく原理は単純な気もするのだけれど。考えれば考えるほど、モノゴトが難しくなるのは自明の理なり。考えなければ考えないほど、浅はかになってゆくのも。微妙なバランス。
誰かに秋晴れの絵を書いて欲しいような気分。自分で描くのではなく。
0920
「もう、優しく出来ないし」
終わり行く予感のある恋をしている彼女は、切なそうにそう言って、私に何かを汲み取って欲しそうにした。私は、優しく出来るのではなく、優しくなれるのが恋なんじゃないかなぁと心の中で思いながらも、其れを声に出して言う事が出来なかった。
そんなこと、彼女だって知っているだろうから。
だから、あんなに切なそうなのだろうから。
0919
基本的にはマッタイラな毎日のなかを、一歩一歩死にゆくことしか許されていない私たちは、時々それに逆らってみたくなって、わざと自分の行く道に穴を掘ってみたり、障害物を置いてみたり、道を曲げてみたり。そんなことで自分の命が在ることを実感なんてするのだから、回りくどい。
生きれば生きるほど死に近づいていく事を、それで誤魔化した積りになっているわけでは、決してないのだけれど。
0918
「繙く」なんてとんでもない。私に出来るのはありふれたダブルクリック。誰もが簡単に成し得る造作。特別なのは、ハードディスクに保存されている、テキストといわれるところの、私ではない誰かが落としていったコトバのデータ。迷った時に参照してしまうのは、文字ではなく、その文字の集合体が私の脳の中で何か共鳴してしまったときの、哀しく美しいヒビキ。
書いても書いても、私はその場所に辿り着けない。
0917
泳ぐと云うひとつの手段を、私は覚えた。何かがあったときにも、何もなかったときにも。何も考えない、何も意図しない。ただ沈まないためだけに、絶えず身体を動かしていようとする本能だけが、私を支配する。700メートルを超えると、どれだけ泳いだのか忘れてしまう程に、心はイノセントでニュートラル。
魚に成りたいのか、水に成りたいのか、わかんない。
透明に成りたいだけかも。
0916
辛い片想いは、黙って耐え忍ぶと美しい。誰にも何も言わなくても、表情とか溜息とかで滲み出て来てしまって、そこで初めて周りが同情したり協力してあげたくなったりするくらい、控えめな強い自己主張にこそ、色気がある。
何度も何度もメールを出しても、決して返事をくれることの無い彼に、どうしたら返事を貰えるか、ナンテ。本気で人に相談しちゃいけない。誰も本当の答えなんて言える筈が無いのだから。
0915
偶然性。必然性。
私に何かが出来るわけでもない。
もちろん、あなたに何かが出来るわけでも。
何も変わらないし、変われないので、同じ毎日。
0912
海の向こうで誰かが起こした大きな事件と比べてしまったら、恐ろしいほど取るに足らないコトなのはわかっている。だけど、今の僕には、この目で直接見たことやこの耳で直接聞いたこと――たとえば、台風が過ぎた後の夕焼けが、僕らの頭上にある東京の空を、現実感がないくらい美しいサーモンピンクに染めていた事とか――のほうがずっと重要な意味を持つ様な気がするんだ。
何か、こんな気持ちにとても相応しい唄を口ずさみたいような気がしたけれど、残念ながら何のメロディも思い浮かばなかった。
0911
髪の毛を切ってみた。
口をそろえたように、「印象がガラリと変わるね」と周りの人たちが言うので、私はただ黙って、少しはにかんだような振りをして、それを聴いていることしか出来なかった。ただ、それ以上でもそれ以下でもないな、とだけぼんやりと思う。
だって、私が髪の毛を切ったって、何も変わらない。
私の目に映る世界は、何も変わらない。
0910
場末という言葉が如何にも似合いそうな、狭くて汚くて薄暗いホテルの一室で、いつもの男といつもと同じような性交をして、それから、まるで初めから約束されていたかのような安心した到達を手に入れることが出来て、それが哀しかったわけではないけれど、何故だか私はポロポロと涙をこぼして泣くしかなかった。
0908#2
心の中の天使と悪魔が畳み掛ける。
「貴女が彼を心底愛しているからといって、貴女は彼のために産まれて来たわけじゃない。彼のために生きているんじゃないんだよ。もっと自分を大切にするべきだ」
「そうは言っても、貴女は既に彼のために大切な大切な時間を捧げて来ているし、そのことに幸せを感じていた筈だ。貴女は彼に属していることを認識すべきだよ」
あたしは、彼らのうちのどちらが天使でどちらが悪魔なのか判断しかねたので、もう寝てしまうことにして誤魔化すしか無かった。
0908(未明)
貴方はもっと認識するべきです。
貴方に会わない間の私が、どういう時間を過ごしているのかを。何処で誰と会い、何を話し、それに何を感じているのかを。私の体の内側で起こっている何らかの変化を。私の体の外側に施された何らかの変化を。そして、「愛している」という言葉が如何に傲慢であるか、ということや、私という女が如何に尊大であるかということを。
貴方はもっと認識しなくちゃあいけないのです。
0906
コンタクトレンズを外して夜を歩いてみれば、目を閉じたって歩けそうなくらい毎日歩き慣れたこの道さえも、まるで初めて訪れた場所の様に思えてきて、急に怖くなって、走り出して、バカバカしくなって、「ふっ」って小さく笑う。
こんな一人遊びが楽しい。
というよりは、まだこんな風に一人でも楽しめる自分を、確かめるのが楽しい。
0905
私は猫より断然、犬が好きなのだけれど。
東池袋の路地裏。月の下。幅わずか4センチほどのフェンスの縁を、まるで体操の選手が平均台を渡るように、胸を張って、背筋を伸ばして、誇らしく歩いている野良猫を見た。この世のものとは思えないくらい美しい、と思った。まるで、犬にはこんなことは出来まい、とでも言いたげな生意気な風情が、涙腺を刺激すらする。
私は何時まで経っても、犬みたいな女でしかいられない。
0904
ぼんやりと。自分の気持ちではなくて、ココロにふっと思い浮かんだ誰かの気持ちを想って、つらつらつらと言葉を綴ってみたら、とてもとても切ない詞が出来上がった。意外なほど、満足の行く仕上がり。私は酷く驚いて、酷く厭な気持ちになった。
多分、私は貴方をそんな気持ちにさせているのを、知っている。意識していなかったけれど、本能的に知っている。それでも、私は私のやり方を変えることが出来ずに、それをアイデンティティだと唄う事しか出来ない。
――誰カガ何処カデ嘲笑シテル。
0903
『肉体的』にとか『精神的に』とかではなく。ましてや『世間的に』とか『法的に』とかいうことでもなく。何歳になったって、私は大人に成れない気がする。
それでも十歳も年下の人から見れば、多分いい歳をした大人だし、それと同じように、十歳も年上の人から見れば、まだまだ青いところが多いだろう。でも、それって当然の事だし、彼らとの年齢差は決して縮まる事がないのだから、何歳になっても、私は大人扱いされたり、子ども扱いされたりしながら、生きていきたい、と思う。
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