0531
 子供の頃、早く大人になることばかり願っていた僕は、いい加減「大人」を自称しても全く差し支えない歳に成ったにもかかわらず、未だに満たされなさばかり感じているんだよ。

0528
 内側も、外側も。なんだかやり切れないくらいの疲れを感じて、ビタミン剤の瓶を開ける。
 クスリなんて嫌いだから、これは最後の手段、なんて思ったけれど。
 その錠剤は、君がこの前くれたガーベラと同じ色だったから、それだけで割と元気になった。
0523
 いいこと思いついて、思わずスキップした。
 ぐうたらな私の頭じゃ十年に一度思い浮かぶか浮かばないかというくらいの「いいこと」は、世界中のたった一人のことしか喜ばせないけれど、それでも最高だ、と思ったとき、やっぱり私は女に生まれるべくして生まれたことを知ったのだった。
0521
 今まで見えなかったものが見えてきたり、見えていたものが見えなくなったり。何かが吹っ切れたり、あるいは何かを諦めたり。そういう瞬間に、ヒトは変わる。
 階段を一段ずつ着実に昇っていくというよりは、三段飛ばしで大きくジャンプするみたいに。
 哀しく。だけど、心地良く。

0517
 どうしても傘を持っていく気になれなくて家を出た。
 案の定、雨は降ってきて、僕は服を濡らしながら夜の街を歩かなきゃいけないだろう。雨に濡れるのは寒いし服を汚すから厭だけれど、それでもなぜか、傘を持ってこなかった事がどこか僕を満足させるのも、解ってるんだ。
0513
 生きるということに間違うも何もないかもしれないけれど、それでも10年前の私は生き方を間違っていたように思う。
 けれど、10年前に間違った生き方をしなかったら、今の私も居なかったのだから、それはそれで良いのかもしれない。
0512
 何も考えないことで、解るものがある。
 説明という存在のなんて瑣末なこと。考えれば解るようなこと。考えるより早く身体が知っていること。真実を語るのは好きじゃない。だから、眼を閉じて。
 肌に触れる風から自分の体温を知るような日曜日。
0510
 雨は思いのほか優しく降っているので、「思い出す度、今でも笑っちゃう事」と「思い出す度、未だに泣けてくる事」は同じようなものなのだと気が付いた。
 お気に入りの傘と同じ色に頬を染めて、こっそりと変な表情を作る。
0508
 たとえば真夏に真冬の寒さが思い出せないのは、犬が夏毛に衣替えするのとは少々事情が違って。真冬に常夏の島へ降り立てばすぐに、人は昨日まで自分を取り囲んでいた寒さをも簡単に忘れることが出来るみたいだ。
 当たり前のような適応能力。
 だから、君も僕もすぐにあの夜を忘れていく。
0506
 私は正しいと、闇雲に言う積りなんてありません。ましてや、私は神でもなければ天才でもありません。人より痛い思いばかり経験している訳でも、人より良い思いばかり経験している訳でもありません。
 ただ平凡に、幾つかの痛い傷があり、幾つかの幸福な記憶があります。
 それだけの事、なのです。
0504
 何だかんだと言いくるめて、1年前にようやく実家に導入させた1台のパソコン。何だかんだと言いながら、ずいぶん使いこなせるようになってきている両親や弟たち。廃れてゆくばかりのこの街でも、人びとの生活はたえず行われ、一見穏やかに時間は流れてゆく。
 アナログモデムの音が、ひどく懐かしい。
0502
 失うこと以上に、手に入れるということは恐ろしいということに気付いても、欲しいものは何とかして手に入れようと思うし、実際にその掌中に収めて笑みを零しもする。
 けれど、欲しいものを欲しいとは口にしなくなった。
 だれかが、大人ってずるいと呟く。