006 「なつのひかり」江國香織 2002/11/18〜19読

 いわゆる江國香織とはひと味違う世界がここにはあるのですが、これをファンタジーと云うべきかどうかは、解りません。とにかく舞台は現実と非現実の狭間であります。そんな中で、奇異な世界観、偏った愛情、人のこころの美醜、が、ここまで突き放した淡々とした言葉で、しかしとんでもなく生々しく緻密に、更にいえば女性特有のあざとさを兼ね備えつつ書かれているという状態は、まさに「きらきらひかる」でブレイクした流れを受け継ぐ江國ワールドにほかなりません。
 しかしまあ、やはりというべきか、物語よりも、ところどころに挿入されている名文のほうが気になります。なんでこの人は、こんなにこともなげに印象的な言葉の繋ぎかたをするのだろう、などと思います。
 いえ、物語も。私は、意外とこういうの好きなんだと気付きました。


007 「僕って何」三田誠広 2002/11/20読

 大学時代、ちょうど「僕」と同じように、大学に入って2〜3ヶ月という時期に、一度これを読んだことがありました。そのときは、20年も違えば大学生も違う、という印象しかありませんでした。遠き昔の学生運動などに、無茶な憧れを抱いていた頃。
 今読み返すと、あまりに「僕」が愚鈍なので笑ってしまいます。自分のことが把握できない現象は、実際の若者にはありがちですが、ここまで一貫性の無い、いちいち状況に流れてしまう愚鈍キャラは、この時代の小説の主人公としては珍しいのではないでしょうか。
 しかしこの愚鈍さが、飽和している現代の若者像と割と一致するので、政治色抜きの青春小説としても、ひとつの問題提起にも受け取れます。今となれば、20年経っても大学生は変わらないのと感じることも出来ます。18歳の私は、あまりに狭い世界を、見ていました。
 ところで三田先生はご自作のwebサイトをお持ちのようで。


008 「人魚姫のくつ」野中柊 2002/11/21読

 結婚を目前とした私にはもってこいの小説でした。
 日本にはびこる全てのお姫様ワナビーに向けられた、ある種寓話的な物語です。が、あまりの後味の悪さに、びっくりしました。
 警鐘のような狙いで書かれたのだろうけれど、ここで描かれている恋愛や結婚こそが、現実とはかけ離れているような気がします。それは主人公の人格が不自然に破綻している所為なのでしょう。これを現実ベースにもってきて共感したり考えさせられたりするのは、とても無理でした。ただ、旦那の犬アレルギーの一節は、とてもリアルで良かったです。ああいうものに感じる愛情のほうが、リアルに解ります。
 昔から友人に「地に足をつけた恋してて可愛くない」と言われてきた私なので、余計にこの物語の言わんとしていることが無駄に感じるのかもしれません。
 だけどやっぱり、恋愛だって結婚生活と同様、日常なのです。


009 「忘れられた帝国」島田雅彦 2002/11/24〜26読

 大学時代に、ナマ島田雅彦がこの作品のサワリを朗読するというイベントまで見に行ったくせに、分量が多かったのでなかなか読まずに来てしまった作品でした。
 「帝国」「あいだ」という概念を飲み込むために用意された第一章さえクリアすれば、あとはすんなり入っていける自伝的小説です。
 彼よりも少し後の時代に、また彼よりもさらに東京から遠い郊外に育った私には、多少の違いはあれどとてもよく解る感覚です。私もこういったテーマが非常に興味深く、実際に自分の作中で16号同盟などという言葉を使ったりしていますが、郊外育ちの子供が大人になったこの時代、郊外というものは様々な背景を含み持った、日本における一つの「文化」として成立しているといっても過言ではないでしょう。
 ところで、「帝国」とは何か、ということを常に念頭に置かなければならないこの作品を読み進めるうちに、私は「何処かではない、此処」という定義にたどり着いたのですが、なんともまあ全く同じようなことが宮台真二さんの解説で書かれていました。悔しいけれど、その解説も大変興味深かったです。
 やはり、60年代以降に生まれた人間にとって、郊外は文化なのです。


010 「膝小僧の神様」群ようこ 2002/11/27〜28読

 小学生を主人公とした幾つかの短編集。
 大人が読む小説で主人公になる子供は、大抵がこまっしゃくれたお子様です。それは、そうでなければ読んでいて面白くないですし、実は子供とは実際に大変こまっしゃくれているものだという現実に則している部分もあるでしょう。
 群ようこさんの描く子供は、きっと私の子供時代の姿にも、とても似ています。しかし、なぜか共鳴しない部分があり、私はそれを、何故だろうと考えました。
 私が大好きだったドラマ「うちの子にかぎって」のことなども反芻して、ひとつ思ったのは、こまっしゃくれた生意気なお子様には二通りあるのです。自分をいっぱしの大人だと思っている子と、子供であることをひどくわきまえて「子供って大変なのよねー」などという子。同じ生意気でも、前者は単に扱いにくく、後者は面倒ではあるが微笑ましい。そうして、私は残念ながら前者でしたが、これらの作品群における主人公たちも、「うちの子にかぎって」で面白かった役どころも、皆、無意識的に後者なのです。
 だから、こういう小説は、大人が読んでこそ面白いのかもしれません。