016 「河童・或阿呆の一生」芥川龍之介 2002/12/16〜18読
かつて、ここに掲載されている「蜃気楼」という作品を崇拝していた知人から、強く勧められて読んだ本を、今更のように引っ張り出してきました。そのときには解らなかったものがあったし、今ならまた違った視点で読めるかもしれない、などと思いながら。
これは芥川最晩年の作品が集められた文庫本です。ぼんやりとした不安、ひいては死の匂いがそこはかとなく漂ってきます。べつに辛気臭くはありません。むしろ、美しい感じすらあります。ただ、死を意識してしまった人間の内面に少しでも触れてしまうことは、泣きたくなるくらい切ないことだと改めて実感しました。この文庫本の中の作品だと、私には「河童」くらいが丁度良いのです。文学は内面を吐露するよりも、社会に対してのメッセージとして存在して欲しい。
で、「蜃気楼」ですが、これは若い頃に読んだのと変わらぬ感想を抱きました。そして、それこそが「なるほどね、そういうことね」と私を納得させた最たるものなのでした。
017 「不思議な事があるものだ」宇野千代 2002/12/19読
宇野千代のかなり晩年の作品を掲載した文庫本です。晩年の作品縛りというわけではありませんが、晩年と一言で言っても、彼女は芥川よりたった5歳若いだけなのに、晩年を迎えるのが70年も遅いという。これは、なかなか対照的な晩年対決ではないでしょうか。
一般的にも、男性より女性のほうが平均寿命が長いようですが、それはひょっとして心的要因が大きいのかもしれません。女性は、大変強く前向きな生き物です。そして流動的で現実に対する適応力があります(だけどそれは、肉体的には劣勢だからこそという気もします)。宇野千代さんはそういう女性の最たるものとして存在し、その人生を遺し続けてきました。「女流作家」の代表的存在として位置付けて問題ないでしょう。
この文庫の中には、小説もエッセイも収録されていますが、何れにせよ晩年というひとつの地点から眺められた宇野千代さんの人生観というのが、よく滲んでいます。こういう人なら長生きするのでしょうね。
なんとなく私も長生きするような気がしてきました。気楽なものです。
018 「中吊り小説」吉本ばなな他 2002/12/20読
かつてJR東日本の車内中吊り広告スペースで連載された作品などを集めたオムニバス(?)小説。このキャンペーン、当時も気になっていたのですが、田舎ものの私は二三回見たくらいが精一杯でした。
さて、この文庫本は、ジャンルもいろいろ、方向性もいろいろ、文章のおもちゃ箱みたいな感じです。人生を変えてしまうほどの作品はありませんが、確かに退屈な電車の中で読むのに相応しい、楽しい作品ばかり。中吊りで読むのも良いだろうけれど、まとめて読むお得感も良いと思います。
内容としては、「東京」がテーマの競作と言っても良いと思います。東京に深い思い入れを持っている著者の人選も素晴らしく、読み比べるのもオツなものです。ただ、著者陣の大半が東京出身の人で、どちらかというとノスタルジーな方面に走りがちなので、私のような田舎ものは、多少の疎外感を受けたりします。
全部の感想を述べたいくらいですが、ともかく自分の好み順で言えば、伊集院静、椎名誠、赤川次郎、あたりの作品が楽しめました。それと、村松友視の作品は別腹で。
019 「ア・ルース・ボーイ」佐伯一麦 2002/12/21読
微笑ましいと言い切れない青春小説。
主人公は、不良ではありません。強いて名づけるなら「不悪」でしょうか。いずれにせよ、いわゆる「普通」になることができません。彼は、ある種の正しさを貫き過ぎています。それはものすごく輝かしいけれど、だからこそ同時に痛々しくて、とても切ないのです。
勿論、共感できる側面も多分にありますが、子供には読んでほしくない青春小説だと思います。それは悪い意味ではなく、逆に私は、むしろこの作品を、子離れできない親に読んでほしいと思いました。彼らに、この小説の意義を理解できるかは別として、ですが。精神的なものも含めて、自立というのが世の中を知ために如何に必要か、と。守られずに生きることで得るものが如何に重要かと。気づいてほしいものです。
全般的には割と面白い小説だと思ったのですが、ヒロインの幹があまりにもひどい女であること(男を捨てるならちゃんと捨てろと)と、山田詠美の解説がひどくつまらなかったこと(かつて私は彼女の影響を大いに受けただけに)が、やや興ざめでした。残念ながら。
020 「クリスマス・イヴ」赤川次郎 2002/12/22読
イヴに読もうと思っていたのですが、思わず先走りです。
多くのホテルで「性夜」を過ごしていたカップルが多かったバブル時代のホテルを舞台にした、ドタバタミステリー仕立てのドッキリ勧善懲悪物語です(何が何やら…)。
一応はミステリーの形式をとっているけれども、誰も殺されてはいないあたりも爽やかです。頭が悪いくせに好き放題に生きていて周囲に迷惑ばかりかけて恨まれている、簡単にいえばウザい奴を、頭の良い人たちや、頑張って生きている人たちが、みんなで陥れてギャフンと言わせるというストーリーも、大変解りやすく気持ち良いです。複雑に絡み合った愛憎関係とか、芸能界事情、プロ根性やら何やらを、ドロドロしないようにスッキリ描く力量はさすがといった感じで、無駄がありません。
しかし、赤川次郎を読むのは中学生以来でしょうか(前述の「中吊り小説」で一編読みましたが)。書店の「クリスマスに読もう」というコーナーに並んでいた幾つかの作品から、自分がなぜこれを選んだかが、一番のミステリーです(わぁ)。
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