031 「神様」川上弘美 2003/1/24読
あーはー。この作品について上手く言い表す言葉を考えたのですが、最終的には「文学の様相をしたややオカルトな不条理ギャグ短篇集」というところに落ち着きました。うーん、私はそれでまあまあ満足です。
何しろ笑うところ満載で、いえ、そこで笑っていいのかは解らないのですが、だって面白いのだから仕方ありません。ものすごい良い発想の泉だと思います。素直に感動。不条理なことばかり身の回りに起きているのに対し、なんとなく「えーまじでー」というような印象をもちながらも(というニュアンスは垣間見られる)、それらをきちんと受け止めている主人公の一貫した態度も、とても素敵です。いえ、主人公だけではなく、ここに収録されたどの物語をとっても、登場人物がみなそれぞれに(わけがわからないながらも)大変に魅力があるというところに、この読後感の気持ちよさの秘密がありそうです。
つまり、著者の愛を感じます。
032 「この人の閾」保坂和志 2003/1/26〜27読
とりとめもなく、という言葉がとても似合う短篇集だと思います。良い意味で。
大体人間の思考なんてとりとめのないもので、色んなものを見たり人と話したり何かに触れたりしながら即時的に思うことには一貫性がなく、だけどそれらの全体を見て集約していくところにはある一貫性が現れて、それを人間性と言うのかもしれません。だとしたら、私は保坂和志さんの人間性がすごく好きです。
そういった個人的な好き嫌いを除いても、そういうとりとめのないことをだらだらと書いているように見せながら、きちんと読ませる文章というのは、私が高らかに宣言しなくとも高度な技術であることは自明で、けれどそんな技術のことなどを考えるよりも前に作品の中の世界に呑まれてしまいます。
一番のお気に入りは「東京画」です。
主人公(著者?)の観察眼は、鋭いのに突き刺さらない。細かいようでいて世界の全てを包み込んでいるような大きさがある。
そういう風に生きていたいな、と思うのです。
033 「地下街の雨」宮部みゆき 2003/1/28〜29読
ジャンルにとらわれていない、色々な試み(?)の垣間見られる短編集という印象です。どの作品も、少しだけ背筋が冷たくなったり、少しだけ切なくなったり、少しだけ泣きたくなったりします。
それは著者の幅広い才能を顕していてすごいといえばすごいのですが、逆にいうと本領を発揮していない感も否めなかったりもします。読んでいる間は割と夢中にさせられて「そして何が起きる?」「このタネあかしは?」と色々想像を膨らませてしまうのですが、それだけに読後感で「あともう一歩ゾッとしたかったなあ」などと思ってしまう感じです。そこらへんは、宮部みゆき氏の代表作品を読めばそれで良いのだろうから、別に不満というわけでもないのですが。
一番気に入ったのは「勝ち逃げ」です。下世話な部分と、人ひとりの人生という思い部分のバランスが取れていて。ちょっと伏線が見え見えでオチは簡単に読めてしまいますが、あるべきところへの着地という感じで。
034 「エロ事師たち」野坂昭如 2003/1/30〜2/1読
ポルノじゃないよ!
と高らかに言ってしまいたくなる位、読むのはちょっと恥ずかしかったのですが、面白かったです。昭和40年代くらいの、エロ産業に関わっている男たちの物語。彼らはみなふざけているように見えることも多々あるのですが、エロ(仕事)に対しても、自分に対しても、仲間に対してもとても真摯だからこそ、物語が繰り広げられているのが解ります。やはり小説を書くということは生きることだ、というようなことをいたく感じるような、そんなパトスを感じます。
噺家が喋っているような、独特なリズムのある文体も、読んでいて大変クセになるので、大変気分はよろしい。そして、その癖になるような口調が変わった途端に訪れる、意外で哀しい気がするエンディングには、思いのほか胸を突かれてしまいます。ああ、スブやん!
こんな作品を引っさげて文壇にデビューした人が、既に何十年も前にいるということに、危機感を感じたりもしますが、兎に角良い作品だと思いました。
035 「恋愛映画」鎌田敏夫 2003/2/3〜4読
鎌田敏夫イコール金妻、という刷り込みイメージのある私ですが、彼の小説を読むのは初めてでした。ですが、ああやはり鎌田敏夫だ、と思います。
一つひとつに映画のタイトルが付けられた短篇連作で、そのタイトルに据えられている映画のことを話しながら、男と女が惹かれあったり何だりというストーリーですが、ひょんなことで映画を一緒に見ることになった1組の映画好きな男女の話ですが、全編に亘り、二人の会話で綴られており、地の文は一切ありません。
そういった形式をとっている以上、映画について話すときだけは、どうしても説明っぽい台詞になり、一緒に映画を観た男女はあんなふうに映画のことを話したりしないだろうと鼻白むこともありますが、それでも、彼らの会話だけで観たことの無い映画の大筋すら解るようになっています。この男女を取り巻くほかの登場人物のこともよく解ります。彼らが会話の裏で考えている複雑な感情まで。
数々のドラマをヒットさせた脚本家の力量見たり。すごいことです。
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