036 「いもうと物語」氷室冴子 2003/2/4〜5読

 とりあえず、北海道の都心部ではない場所に育つ子供たちの物語で、時代背景的には私よりも二十歳くらい年上の人たちが子供だったときくらいだと思われます。全体的に何ていうことはない短編連作なのですが、私が今までに取りあげてきた中で子供が主人公のものとここで描かれている世界はなぜか相容れない雰囲気があります。
 「いもうと物語」は、強いていえば「ちびまる子ちゃん的世界」として子供世界を描く大人向け小説という感じで、ごく普通の子供時代を過ごしてきた人ならばこちらの方が懐かしみや微笑ましさを覚えるのでありましょう。「ちびまる子ちゃん」はアニメ化のあたりから変な路線に進んでしまいましたが、元々はこういったほのぼのしみじみ系だったなあ、と。
 北海道の小学生たちにとっても、そのシーズンの初雪というのはワクワクするものなのだと解ったのが嬉しかったです。私も来年の冬は向こうで過ごします。


037 「イノセントワールド」桜井亜美 2003/2/6読

 桜井亜美に関しては、以前他の作品を読もうとして、どうしても受け付けなくて途中で辞めてしまった経緯があったのですが、これを機に乗り越えようと、とりあえずデビュー作を手に取ってみました。
 この作品、十代の頃に読んでいたらかなり衝撃を受けていただろうと思います。ただ、主人公や知恵遅れの兄のことや彼らを取り巻く色々な要素について熱くなれるほど私も若くなくなってしまいました。
 「'90年代的」というキーワードが最もハマる作品だと思います。五年早くても五年遅くてもリアリティがない、生きた少女の物語です。今の時代にはちょっと古くさい感じになってきてしまっているかもしれませんが、もう二十年位のちに「これが'90年代だったんだ」というイメージで読むのは、的はずれじゃないでしょう。'90年代の女子高生がみんなこうだということではなくとも(例えば私だって'70年代の若者がみな「限りなく透明に近いブルー」だと思いませんし)。
 こういうところに私は、文章を残しておくことの偉大性を感じます。


038 「朝のガスパール」筒井康隆 2003/2/8〜10読

 メタフィクションという、ものすごい物語の構造そのものもさることながら、兎に角試みに意義のある作品。新聞連載という小出しの特性を活かし、投書などの意見を取り入れて読者と作る小説という形態です。私は当時、音楽と恋愛にしか興味の無い低能な女子高生で、リアルタイムでこんなすごいものを見ようともしなかった事を悔やみます。パソ通での書き込みも視野に入れたことで混沌を呼び、それについての論評部分が私には一番楽しめました。ちなみに漫画では相原コージも何年か前に似たようなことをやりましたが、ズタズタになっていました(私は面白いなあと思いましたが)。
 テキストサイトをやっている人やネットで小説を公開している人は、こういう作品を運営にあたっての教科書にしたら良いと思います。読者とは本質的にいかなるものか。自分の著作を公開するのにどれだけ責任と覚悟を持つべきなのか。課題は幾らでも転がっています。
 かの愛蔵太も実名で出てますし。


039 「ハチ公の最後の恋人」吉本ばなな 2003/2/11読

 一言でいうと、初恋アンソロジー小説、とか。勿論、マオみたいな女の子はそう簡単にいませんし、彼女とハチのような関係を初恋として経験する人は皆無といって問題ないとは思いますが。
 全編に亘り、初恋を忘れかけそうな歳の人間が、初恋の時代を少々美化しつつ思い出すときのセンチメンタリズムに似たようなモノに満ちていて、温かい意味で泣きたくなりました。
 恋愛というモノを覚えたとき、人はまず(その相手ではなく)自分自身と向き合わなければならなくなるので、確かにそれが人生の一つの大きな転機になると思います。そして、そうであるにもかかわらず、実際にそれが手慣れて日常になって行くと、忘れてゆくモノが多いことにも気付かなかったりします。そういう曖昧なモノを、思い出させてくれる小説です。
 結婚して、これから恋愛生活が日常になるという私にとっては、今読んでそんなことを感じたことはとても意義のあることのような気がしました。


040 「ゴッド・ブレイス物語」花村萬月 2003/2/12読

 絶賛するほどではないですが、好きです。花村萬月という作家の醍醐味は、この作品では存分には味わいきれない気もしますが。なにしろバンド少女出身というアレな過去を持つ私といたしましては、ゴッド・ブレイスというバンドとそれを取り巻く人たちの、ありえないのに意外とリアルな存在感が妙に印象的です。
 バンドものでありながら、クライマックスまでヴォーカルである朝子が気持ちよく唄える場面が無いという古典的な展開も、とても良いです。朝子の唄への思い入れは、クライマックスまでに読者に既に理解されるように物語が構成されているので、ライブ場面がおのずと際立った輝きを放つのであろうと思います。
 バンドメンバーで唯一の女性がこんなに魅力的だと、どうも皆兄弟になりがちな気がするのですが、それぞれのワケありな背景によってそこらへんのバランスがうまく取れているあたりは、少々非現実的だというような気がします。そんなわけで、思ったより恋愛に恵まれない朝子ですが、9歳の少年に片手で腕枕をしてあげながら、もう一方の手で自慰をするというシーンは、激萌えです。