041 「彗星物語」宮本輝 2003/2/13〜14読
『物語』を読むのであれば、なんだかんだ言っても自分はこういうのが一番好きだなあ、と思う種類の物語です。12人と1匹のワケありな大家族が留学生を受け入れるという、基本的にありえない設定なのですが、それがまるで身近な家族のように感じられるのは、生活だとか日常だとかを緻密に描く手腕、ひいてはそれらを愛する心があるからではないかと思ったりします。心温まります。ラストシーンは当然泣けます。
だれも脇役なんかじゃなくて、みんなにとってみんなが重要人物であって、そういう中で人とわかりあったり人とわかりあえなかったりする、ただそれだけの日常風景が、留学生というスパイスによって彩られて。良くも悪くもバタバタする時期ってのは必ずどんな家族にもあると思いますが、そういう時期こそが一生の中でも一番忘れられない思い出になるのかもしれません。
なお、犬好きまたはショタコンならば、萌え特典もついてお得です。
042 「女たちの輪舞曲(ロンド)」家田荘子 2003/2/15読
大抵のことに動じない私ですが、さすがにこの作品にはちょっとヒいてしまいました。家田荘子はどこへ向かっているのでしょうか。いや、彼女の狙いはよく解ります。が、色々と過激なネタを扱っているうちに、普通の感覚をなくしてしまったのではないかと思うくらいエグいです。エグいの見本です(賞賛してるわけじゃありません)。
とにかく。騙されて撮られたAVが学校の先生に買われ脅されたことをすべて人のせいにするアホな女子高生が、仕返しにオヤジを誘ってセックスすると見せかけてアイストングで眼球をえぐりだすのは、いくらなんでもやりすぎ。アリかナシかで言えばナシ。もはや官能も感傷もないし、不気味ですらありません。
とはいえ、幾つかあった短篇の中でこのシーンが私の脳裏に異様に強く残ってしまっていることを考えると、やはり書いた彼女の勝ちなのかもしれません。
043 「さようなら、ギャングたち」高橋源一郎 2003/2/17読
そもそも私の中で高橋源一郎氏はあまり小説家というイメージではなく、書店でも小説を見かけることが殆どなかったのですが、以前から読みたいと思っていてようやくこの作品を入手しました。
読んでいると無意識のうちに、ことば、というものについて考えさせられる感じがします。それは、小難しくて学術的なものでは決してなく、散文詩的だとかいう形式のことを指すのでもなく、もっと人の根本的に根付いている部分から出る、あるいは人の根本的な部分に訴えかけてくる、ことば、というもののような気がします。
うーん、私は今、自分が言っていることが微妙すぎて訳がわかりません。とにかく、ストーリーにのめり込むでもなく、登場人物にのめり込むでもないのに、作品にはのめり込める。その理由は、ことば、しかないかなあ、と。
ものすごくせつない。けれど、何故せつないのかがわからない。そこが、気持ちいい。
044 「インディヴィジュアル・プロジェクション」阿部和重 2003/2/18読
決して嘘臭いわけではないのに希薄な現実感。全ての登場人物が重要そうでそうではないようで錯綜する人間観。もはや誰が何で何が誰だかわからなくなるような自我の崩壊。とか、とか。
そういうものをひっくるめて、謎の多いまま全ては進んでいきますが、著者がこの作品を通してもっとも言いたいことは、渋谷の若者の生態でもなければ、暴力でもなければ、謎のスパイ活動の件でもなく、おそらくタイトルそのまんまの事なのでしょう。色々なエッセンスが効きすぎて主題が見えにくくはなっていますが、やはり主人公(の主人公?)が一人で壊れてゆくさまは、重さの割には怖くもキモくもなく、大変興味深いものでした。
そして、読者も一緒に大いに混乱させておいて、最後のたった数ページで覆すというその構成には、思わずニヤけてしまった次第であります。
初めからこういう結末を想定して全てを書き進める気分って、かなり爽快なのではないかと思います。
045 「眠れぬ森の美女たち」香山リカ 2003/2/19読
精神科医の香山リカさんが小説としてははじめて書いた文章だとか。良くも悪くも理系のひとが書く文章だと思いました。
がんばってきたけれど老後が心配な女性たちが共同生活できる場を提供する商売を始める元精神科医の視点で書かれていますが、一人称で書かれていなかったほうが良かったかもしれません。読者が共感したいのはおそらく主人公ではなく、彼女を取り巻く色々な問題を抱えた女性たちのほうでしょうから。それにしても、老後の共同生活はきっと楽しいと思います。50年後に自分が元気で、こういう施設が本当にあったら、ちょっと入ってみたいなあ。
ところで、私は女性性に寄りかからずに、それでいて女性であることを楽しめればいいな、と考えました。確かに女性ならではのカルマめいたものというのはあるし、それに本能的に縛られているのが女性だと思うのですが、だからといって悲観的になるようなことは何もないです。楽しいです。
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