046 「満月物語」薄井ゆうじ 2003/2/20読
幻想的でほんのり恋愛なオカルトファンタジー(?)です。
竹取物語のパロディーでもなく、現代版かぐや姫とかいうのとも少しニュアンスが違うと思いますが、かぐや姫の物語だと言って良いと思います。
祖父から突然届いた手紙、月に帰らなければならない女の子、謎の方言が横行する不思議な島、不気味な寺。考えてみると訳の解らないことだらけの設定ですが、主人公が常にその状況をいぶかしんでまったく信用していないところに、妙なリアリティがあります。
読んでいるうちに結末はだいたい見えてしまうのですが、その幻想的な美しさと、オカルト的な不気味さと、ミステリー的な謎解きが良い具合にミックスされていて、不思議な魅力があります。
何故だか気持ち良い物語でした。
047 「ナイン」井上ひさし 2003/2/22〜23読
フィクションなのかどうかが定かではない短編集です。エッセイに近い私小説という感じでしょうか。東京の、井上ひさし氏にとってゆかりの土地を舞台に、大きな事件があるというわけではなく、些細な出来事や人間模様から「何か」を感じ取るというタイプのものです。
細かい観察力と分析力を駆使して生きている人だと思います。普通の人だったら見逃したり聞き逃してしまうような出来事が、いくつもの緻密な物語を織りなしていて、興味深いです。
舞台となっているのが東東京(最西で新宿)だというのがまた良いです。総武線とかよく出てくるので、井上ひさしは昔から何となく親近感があったのです。時代は違えど、私の好きな東京風景の中で生きてきた人だ、と思います。
そして、実のところ、自分が一番書きたい小説は、かなりこれに近いと思いました。もう書いている人がいるので、真似をしても仕方ないのですが。
048 「家族会議」横光利一 2003/2/24〜26読
兜町で株式売買を商売としている男の、株と恋愛をめぐる物語です。主人公の男を四人の女が取り巻いています。四人の女は、それぞれ主人公の思い通りには動きません。それぞれの考え方があり、それぞれの愛し方があり、それぞれの生き方があります。
読むのにかなり時間がかかってしまいました。というのも、ひとつには、恥ずかしながら私は株の仕組みすらよく解らない無学の人間だからであり、もうひとつには横光利一の
「純粋小説論」を併せて理解しようと思ってしまったためです。私の杜撰な読解力で把握した範囲内ですが、なるほど、これは彼の純粋小説論に従った小説なのだということが解りました。
まあ、もはや純文学だとか通俗小説だとかいう曖昧な概念で文学をカテゴライズするのは、どうかと思います。彼らの時代には彼らの時代の考え方があるというだけのような気もします。
ただ、文芸復興を起こそうと考えている人は、いつの時代にもいるのだなあ、ということを感じるのは、とても好きです。
049 「消えたミステリー」 森瑶子 2003/2/27〜28読
実は森瑶子って好きじゃない(その割には読む)のです。
なんというかこの人は、女のあざとさを遠慮なく書いてしまう人というイメージが私の中にありまして。いやあ、そんなに女の手の内を暴露されると困ってしまいます、といった感じで。いわば、自分の恋人には読んで欲しくない作家ナンバーワンといった感じでしょうか。
しかし、この作品はそのあざとさが良い方面に出ていて、面白かったです。森瑶子ワールドはきちんと繰り広げつつ、幾層にも重なった現実と虚構のフィルターの間で揺れ動く愛憎関係が紡ぎだすミステリー、かと思いきや実は! みたいな。
この際、誰が被害者で、誰が加害者で、どういった動機によってどんなトリックを使った、ということは、あまり関係ありません。大切なのは、結局誰が主人公なのか。森瑶子本人なのか。どこに落ち着くのか。というあたりに集約できそうです。
そんな混乱こそが、ミステリーが消える理由なのかもしれません。
050 「夫婦茶碗」 町田康 2003/3/3〜4読
世の中には、ダメ人間が溢れんばかりに存在します。類が友を呼んでいるだけかもしれませんが、少なくとも私の周りにいかにダメ人間が多いことか。
で、ダメ人間にも良いダメ人間と悪いダメ人間というものがあります。それらを区別する要素は、おそらく本人が大真面目か否かという一点に尽きるでしょう。大真面目に生きてもダメ人間、では救いようがないように見えるかもしれませんが、そうでもありません。そもそも不真面目に生きればダメ人間になるのは至極当然で、そういう人は「真面目にやればいい」と言われて終わりです。
町田康の書く人物というのはたいてい大真面目なダメ人間です。一生懸命生きれば生きるほど、世の中や現実とのズレが生じ、それは、あくまで客観的に見ると面白いので、面白い小説になってしまいますという寸法です。どんなにダメでも、彼の書くダメ人間となら、私は結婚してもいいなあと思います。苦労しますが。
ちなみに私は悪いダメ人間なので、もっと真面目に生きようと思いました。
←