056 「1973年のピンボール」村上春樹 2003/3/14〜16読

 初めに言うと、実は村上春樹ってどうも昔から好きじゃないのです。同世代にそう言い切る人があまりに少ないので、なかなか言う機会がありませんでしたが。昔に幾つか読んで好きじゃなかったので、ずっと避けて通ってきました。このたび読んでみたのは作品も、十年振りくらいでしょうか。
 えと、やっぱり好きじゃなかったです。
 作品自体が悪いとかそういうことではなく、むしろ世のハルキストさんたちが彼に魅了される理由も多分解っているのですが、私とて読んでいる最中は普通に楽しんでもいるのですが。それでも読後の厭な感じが否めません。どうも私にはこのひとの世界観が合わないみたいです。
 相容れないというだけの個人的な理由ですみません。チムチムの脳みそが足りないんだと罵倒してくれたらいいと思います。


057 「恐怖同盟」阿刀田高 2003/3/17〜18読

 ホラーともミステリーとも言い難い怖い短編集です。怖かったよー
 ごく身近にありそうな短い物語をさりげなく語りつつ、恐怖の材料を転々とちりばめる。恐怖の材料はその時点ではあくまで点であり、怖くはない。しかし、ぼんやりと少しずつ、点と点をを結ぶ線が見え隠れしだす。その瞬間、読者の背筋はぞっとする。
 という、人の感覚が「恐怖」という到達点に至るまでの経路を知り尽くした人が書いているので、面白いように背筋がぞっとします。著者の思うツボですよ。まったく良い読者です、私は。
 それと、このたび発見したのですが、二人称主人公(あなたは今、〜〜をしている、等の文体)が最も効果を表すのは、怖さを味わわせる目的でそれが使われたときではないでしょうか。まじ迫り来るよ。


058 「金魚のうろこ」田辺聖子 2003/3/19〜20読

 やはり田辺聖子が好きだなあと思ったのは、この短編集の表題作にもあるとおり、「目からうろこが落ちた」という感動の中の、「まあ、うろこつっても金魚のうろこぐらいのやつだけどね」みたいな態度でしょうか。他の作品も、そういった「心が小さく揺れ動く瞬間」をやさしく、かつ鋭く捉えた物語になっています。
 大仰な感動なんて、私たちが経験する機会は現実的にあまり多くないのです。だけど、金魚のうろこみたいな感動だからって、それに鈍感になってしまうようでは、どんな物語も小説にならないのではないかと。その逆もまたしかり。
 ああ、だから田辺聖子は食べ物をいかにも美味しそうに書くのが得意だったのかもしれません。ものすごく、よくわかる。


059 「東京スリーズ・ダウン」横森理香 2003/3/24〜25読

 昔からなんか好きで、何回読んだか解らない作品です。読めば読むほどこの作品がどうして好きなのか解らなくなります。「なんか好き」って曖昧な感覚ですが、それがこの作品に合っている空気なのかもしれません。絶賛も推薦もする積りはなくて、もっとプライベートな、例えば自分が昔からの友達と打ち解けて語り合う、みたいな心地良さを求めて読んでいる気がします。とはいえ、私は外国に遊学なんてしていないし、毎週クラッビングに精を出したりしないし、ドラッグもやらないし、オカマじゃないし(女だから中身は一緒か)、彼らの生活とは何ひとつかぶらないはずなのに、「私にとって大切な時間」像と重複することが沢山あって、甘酸っぱい。そんな存在。たぶん、主人公がオカマ(ゲイと言うよりも、もっと親愛の情を込めて私はそう呼びたい)なのも、一層良いのだと思います。
 地の文からしてあやしいオネエ言葉で書かれているので、読後はしばらく喋り方がオカマっぽくなってしまうという罠も。


060 「Go」金城一紀 2003/3/26〜27読

 自分はただ自分である、ということを知らない人が多すぎることで、私も常々悲しい思いをしています。いや、どんなものに分類されても、決してどのマイノリティに属すわけではない私がそんなことを言ってみても、おまえが何を知ってるんだ、といわれそうですが。
 いわゆる在日の人が書いたものの中で、そういう意味でこの作品、いちばん「読んでも悲しい気持ちにならない小説」なのではないかと思います。笑えるところが多いとか、ハッピーエンドだとか、そういうことではもちろんなくて。
 青春小説はどんな状況においても青春小説であり、その役割というのは、「ものすごい当たり前なんだけど、人がなかなか気づかない、または忘れがちな真実を、声高に叫ぶようなもの」なのだなあ、と改めて思います。
 映画も見たほうが良いですか?