惚れた弱み
 
「何なのアイツ、もう許さない!」
 と、恋人の愚痴をぶちまける女友達。こういう光景は、男の子と女の子が付き合うようになった年頃から今に至るまで、少なくとも私の周りには頻繁に見られる存在です。幾つになっても、どこへ行っても。

 愛するという言葉と最も近い動詞は、『許す』かなと思うわけです。生まれや育ちの違いなど云うまでも無く、そもそも別人格を持っている全ての他人と完全に理解し合えるなんて、思うほうがおこがましい。理解しなくていいから、許す。これは恋愛に限らず、全ての人間関係に言えることかもしれません。
 しかし、恋愛関係にある二人の関係性というものは、他の人間関係に比べて圧倒的に相手との距離が縮まるはずであり、そうなると相手にいろいろなものをさらけ出さざるを得ません。はからずも、お互いのイヤなところを見たり見せたりする機会が増えるわけです。かりにも「この人が一番心を許せる相手」だなんて思ったら、普段はとても人間が出来ていると云われているあの人ですら、我儘にもなってしまうのです。
 そこに必要なのが『許し』であって、それがないと恋愛関係を続けていくのが非常に困難になるわけです。

 ここにおいて、『許し』の原動力となるのが、いわゆる『惚れた弱み』というものなのですが、相手が自分に惚れてりゃ何でも許されるかというと、当然のことながらそういうわけにはいきません。人によって価値観というのは驚くほど違うので、自分は特に何も思わないようなことが相手にとっては「人として最悪」だったりもしますし、その逆もまた然りです。どんなに惚れていても、相手が心底許せないことをした場合、その瞬間、愛情は憎しみにすら変わります。
 そして、相手の『許し』の範囲を超えなければ良いかというとそうでもありません。というのも、『惚れている』という状態は永遠に続かないからです(広義の意味での愛情にはなり得ても、いわゆる恋愛感情というのは数年で鎮静化するというのが一般的)。この前まで許してくれていたことが原因で、ある日突然喧嘩別れ――というようなことも、実際にあるわけです(相手の許せないことに『惚れた弱み』で我慢を重ねていると、忍耐がその恋愛におけるメインになってしまったりして、当初の愛情なんて薄れてしまう)。
 などと言ってしまうと、何れにせよ時間が経てば恋愛など終わってしまうかのように思えますが、『惚れ直す』なんていう言葉もあります。ある種の感動をもって惚れ直す瞬間というのが、恋愛感情の延命になるのかもしれません。結婚すればまた別だと思いますし(夫婦間に恋愛の類の愛情がどれだけ必要かは、まだ私にもわかりません)。

 とにかく、恋愛を長続きさせる秘訣というのは。
 一つは、相手を惚れさせつづけること。
 もう一つは、相手の『許し』の範囲を理解し、超えないようにすること。
 やりかたは十人十色でしょうが、周囲の恋愛上手な人を見ていると(自分の失敗経験も含めて)、これが一番良いような気がします。付き合っている相手に振られることが多い人は、大抵相手が自分に惚れていることに胡座をかいているようにも見えます。

 一応補足しておきますが、勿論人間の感情の話なので、ある日堪忍袋の緒が切れたらジ・エンドというほどはっきりくっきりしたものではありません。(2002/7/1)