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山手線ゴー・ラウンド ―原宿―

 大晦日だというのに私は十一時までバイトをしていた。本当は休みの予定だったけれど、代わって欲しいという子がいたから代わってあげた。浩紀との約束があったから。
 十一時四十分に、原宿駅。カウントダウンと同時に明治神宮に初詣に行こうと言い出したのは浩紀のほうだ。私のバイト先は原宿の明治通り沿いだから家から行くよりも良いし、年末年始手当で時給が上がるのだから、働いたほうが良いと思ったのだ。
 ところが、バイトを終えて更衣室で携帯を見ると、浩紀からメールが入っていた。
「バイト終わったらTELして」
 浩紀が待ち合わせの時間前に連絡をしてくるなんて珍しい、と思いながら急いで着替えて、とりあえず店を出たところで電話をかけた。年末の混雑のせいか電話は繋がりにくかったけれど、何度か試していると繋がった。
「もしもし、浩紀? 私、今バイト終わったトコ。浩紀は?」
「家にいる」
「え? だって初詣......」
「やっぱり、行くのやめよう」
「な......何よ突然。どうして?」
「別れよう、俺たち」
「は?」
 頭の中が真っ白になった。
 何を言えばいいのかも解らなかった。けれど、私はとにかく何か言った。どうやら理由を聞いたらしかった。
「他に好きな子が出来た」
 手短に言った浩紀の言葉に、私はなおさら何も言えなくなった。

 電話を切って、私はしばらく呆然と立ちつくした。つい一週間前まで、私たちは仲の良いカップルだった。いや、そう思っていたのは私だけかもしれない。周 りの友達に「だめんず」と言われ始めてはや半年だ。「別れなよ」と言ってくれる子もいた。けれど、私はそんな言葉を聞いちゃいなかった。
 浩紀は本当に気まぐれな男だ。守れない約束や、何度となく変更される予定、調子が良いだけの嘘に躍らされる毎日だという自覚は、私にもちゃんとあった。 それでも私は、彼が好きで好きで仕方なかった。あんなに気まぐれな彼に付き合えるのは私しかいないと思っていたし、彼にもそれが解っているから私たちは続 いているのだと思っていた。
 けれど、最後の気まぐれだけは、私が受け入れられるものじゃなかった。この前のデートからたった二日で、他に好きな子が出来たなんて、本当かどうかは解らない。
 ただ確かなのは、彼が初めて私を拒絶する内容の気まぐれを言い出したということだった。

 原宿駅から明治神宮へと人が流れていくのが見える。こんなことをしている場合じゃないと、私はふと我に返った。私も人の流れに乗って歩き始めた。トボト ボ歩いているとみっともないから、少しでも背筋を伸ばそう。もっとも、道行く人は誰も彼も楽しそうで、私のことなど気にかけていないけれど。
 遠くも近くもない人垣の向こうで、カウントダウンを始めて大騒ぎするグループがいる。彼らと一緒のタイミングで、私も最悪の展開で終わった2003年に別れを告げよう。
 一人で初詣に行ったって良い。浩紀の気まぐれのために予定を変える必要は、もうなくなったのだから。そして、私は祈ろう。
 今年こそ、本当の恋が出来ますように。

代々木渋谷



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