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山手線ゴー・ラウンド ―大塚―
私は田中のことが好きだと思い切って告白した。田中も、私のことを前から好きだったと言ってくれた。私たちは両想いということで、めでたく付き合うことになった。
付き合うといっても、どうすればいいのか私たちはよく知らない。今まで通り、学校でふつうに顔を合わせるだけ。田中は男の子たちといつもサッカーなんか
やっているし、私は私で友達といつも一緒。急に何かが変わってしまったら私も困るけれど、思い切って告白した意味が解らなくなる。
そんな状況のまま冬休みが来て、私たちはいつものように学校では会えなくなった。私は思い切って田中に電話してみた。携帯電話も持っていない私たちは、
家の電話だから緊張する。何を話して良いか解らないし、家族に聞かれたらいやだという気持ちもあって、私たちはせっかく電話していても無口だった。
近所の公園で会うにも、どこにクラスメイトがいるか解らない。私はどこかへ行こうよと提案した。田中はふつうにいいよと言った。ようやくデートだ。約束
がクリスマスの日だったから、私はこっそり田中へのクリスマスプレゼントを準備した。何を喜ぶのかよく解らなかったから、コンビニで買ってきたお菓子をい
くつかかわいい袋に入れてラッピングしただけのものだけれど。
いよいよその日がやってきた。私たちは、何はともあれ都電荒川線に乗った。
田中は都電の中でも妙に静かだった。私も、あらためて二人になってしまうと何を話したらいいのか解らなくなった。私たちは黙ったまま、意外と混んでいる都電に揺られていた。
大塚駅前で田中が突然「降りよう」と言ったので、私はあわてて一緒に都電から降りた。どこまで行くか、はっきりとは決めていなかったけれど、私の中では東池袋四丁目で降りればサンシャインかなんかに行くのに良いと思っていたのに。
「なんでこんなところで降りたの?」
「えー、だってオレ、ここから先って乗ったことないんだ。いっつも大塚で山手線に乗り換えるから」
「でも......」
正直、ここから山手線に乗り換えてさらにどこかへ行くほど私はおこづかいを持っていなかったし、どこに行けば楽しいのかもよく解らなかった。大塚の駅前は、どことなく大人向けの雰囲気で、私たちが楽しめそうな場所はなさそうだった。
「どうしよう」
「よくわかんない」
どっちに行けば何があるのかよく解らないし、下手に動くと迷子になりそうだ。仕方ないので、私たちはすぐ近くに見えたファーストフードの店で、ドリンク
を飲むことにした。そうだ、好きな人がこうして私と一緒にいるんだ。どこへ行くかなんて問題じゃない。私は気を取り直して、用意していたクリスマスプレゼ
ントを田中に差し出した。
「メリークリスマス!」
「え? プレゼント?」
「うん」
「いいの? オレ何も用意してないのに」
田中は少しだけ申し訳なさそうに、けれど、嬉しそうにそれを受け取った。
「クリスマスプレゼントなんて、大人からもらうもんだと思ってたからさぁ」
早速その包みを開けながら田中が言った言葉は、私たちが十代にも届かない、悲しいくらいに子供だということを証明しているみたいだと思った。
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