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山手線ゴー・ラウンド ―品川―
品川に新幹線が止まるようになったのは知っていたけれど、自分には関係のない話だと思っていた。
「バイト代も貯まったし、大学も冬休みになったから、会いに行く」
と、サトルが言い出すまでは。
私たちは、遠距離恋愛をしている。名古屋に住むサトルと大森に住む私が会うには、東京駅より品川駅のほうがほんの少し近い。一分でも早く会いたくて、私たちは品川駅で待ち合わせることにした。
「品川着いた」
「どこにいる?」
「新幹線の南のりかえ口ってとこ」
「私もすぐ近くにいるよ」
私は携帯メールでそう打って送信し、周りをキョロキョロ見回す。電話があるなら話をすれば早いけれど、私たちはお互いの電話番号を知らない。
私たちは同年代の人間が集まる雑談チャットで知り合い、いつしかメールをやりとりするようになった。そのうち、ものの考え方がとてもよく似ていることに気付き、何でも話せる相手だと思うようになった。
「みゆのこと好きになっちゃったよ」
「私もサトルのこと好きだよ」
メールをでそんな会話をして付き合うことになったけれど、私たちはお互いの顔も知らないし、声を聞いたことすらなかった。それは、会うときまでのお楽しみにしようと決めていたのだ。
新幹線の乗換口前で、不安げに周りを見回している同年代の男の子を見かけ、私は動きを止める。この人に違いないと思った。彼も私と目が合って気付いたようだ。近づいてきて、そして言う。
「みゆ?」
私は黙ったまま、ただ頷いた。
本当は不安もあった。いくら気持ちが通じ合っていても、ついこの間もネットで知り合ってストーカーになった男が女性を刺したという事件がニュースになっ
ていたし、彼の顔をを好きになれなかったらどうしようとも考えていた。けれど、それらはすべて杞憂だった。彼は私が思い描いたイメージ通りの人で、さらに
言えば私の好みのルックスだった。
「なんか、イメージ通り」
サトルも私を見て一言目にそう言った。私たちは、初めてお互いの笑顔を見た。
「これからどうしよう?」
「とりあえず新宿あたりに出ようよ」
「任せた。東京案内よろしくな」
私たちは、初めて会ったとは思えないほど自然な会話を交わしながら移動する。品川駅は大きく、山手線ホームは意外と遠いけれど、そんなことは気にならない。
ホームで山手線が来るのを待っている間、サトルの携帯が鳴った。
「あ、友達からメールだ」
そう言って彼は私の横でメールを開く。見てはいけないと思ったのに、その内容がチラッと見えてしまった。きっと仲の良い男友達からのメールなのだろう。全文は見えなかったけれど、『メルカノどうよ?』という冷やかしの言葉があったのが見えた。
そこに『彼女』ではなく『メルカノ』と書かれていたことに、なぜか私の気持ちはすぅっと冷めていくような気がした。
品川駅に新幹線が止まるようになったからといって、私たちの距離は縮まらない。
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