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山手線ゴー・ラウンド ―大崎―

●登場人物
  勇治 男、三十二歳
  真紀 女、三十二歳



  平日、午後七時半の大崎駅。
  人々が行き交う中、勇治は改札から出てふと足を止める。
  向こうから来る一人の女を見つめる。
  真紀、男の視線を感じて顔を上げる。
  二人の目が合う。

勇治「あれ......」
真紀「え?」
勇治「真紀だよな?」
真紀「......嘘、なんで?」
勇治「うっわー、本当に真紀だ。お前、全然変わってないな」
真紀「放っといてよ。勇治は、随分と落ち着いたみたいね」
勇治「そりゃ、もう十二年も経つからな」
真紀「十二年! 歳とるはずよね」
勇治「俺なんか、子供三人もいるよ」
真紀「やだぁ。全然似合わない」
勇治「......真紀は?」
真紀「私は――結婚はしたけど」
勇治「子供はまだなんだ?」
真紀「仕事辞めたくないと思ってるうちに、機を逃したかも」
勇治「そっか......」
真紀「それよりも、勇治こそ、どうしてここにいるのよ?
   就職して浜松に住んでたんじゃなかった?」
勇治「今は、ほら、すぐそこに高層マンションあっただろ?
   あそこに住んでるんだ」
真紀「そうなの、いつから?」
勇治「去年の秋から。本社勤務になってさ」
真紀「へえ、ご栄転?」
勇治「まあな、課長ってことで」
真紀「おめでとう。思ったよりまともな社会人になれて、良かったわね」
勇治「相変わらず、口悪いなあ」

  二人、見つめ合って笑った後、沈黙。

勇治「......大崎、よく来るの?」
真紀「たまたまよ。取引先にちょっと顔出してきたところなの。
   りんかい線が通って近くなったとはいえ、
   大崎は山手線の中では最も縁がない駅だわ」
勇治「そんなところで俺と会うなんて、奇遇だな」
真紀「悪運が強いんだと思うわ」
勇治「まあそういうなよ。立ち話もなんだから、ちょっと外に出ようか。
   近くに旨いワインが飲める店があるんだ」

  勇治、東口に向かって歩き出そうとする。
  真紀、立ち止まったまま何かを言おうとするが、
  少し宙を見つめ、考えてから口を開く。

真紀「勇治、あの頃よく言ってたよね。
   『俺たちはきっと、別々の人と結婚すると思う』って」
勇治「ああ、『でもお前とはずっと友達でいられる』ってな。
   本当にそうなっちゃった、ってわけか」
真紀「ならないわよ」
勇治「どうして? 俺もお前も別々の人と結婚して、再会しただろ」
真紀「でも、友達じゃないもの」
勇治「だから今から飲みに行って、改めて友情を結ぼうって......」
真紀「無理」
勇治「どうしてさ?」
真紀「友達に戻れるくらいなら、勇治が東京に戻ってきてること、
   私はたぶんとっくに知ってたと思う」
勇治「え......?」
真紀「会いたくなかった」

  真紀、言うなりSUICAをかざして改札に入り、走り去る。
  勇治、何も出来ずに後ろ姿を見送る。

五反田品川

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